
コラム
【保存版】犬猫の誤飲・誤食対応マニュアル|治療法と予防の全て
愛犬や愛猫が思いがけず危険な物を口にしてしまい、慌てて動物病院に駆け込んだ経験をお持ちの飼い主様もいらっしゃるかもしれません。こうした誤飲や誤食は、犬や猫の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があり、どなたにも起こりうる問題です。
特に近年では室内で暮らす犬や猫が増えているため、誤飲や誤食の事故も増加していると言われています。そのため、飼い主様が日頃から注意を払い、正しい知識を持つことが大切です。
今回は、誤飲・誤食の定義や代表的な危険物の例を挙げながら、万が一の際の対処法や事故を防ぐための予防策についてわかりやすく解説します。

誤飲と誤食の違いとは?
一般的には、食べ物以外の物を誤って口にしてしまう行為を「誤食」と言います。一方で、「誤飲」は飲み物や液体に関連して使われることが多く、飲むか食べるかの行為によって使い分けられるのが特徴です。
しかし、獣医療の現場では少し異なる定義で区別されることがあります。
「誤飲」とはビニールや紐、ボタンなどの食べ物以外の異物を飲み込んでしまうことを指し、「誤食」とはチョコレートや玉ねぎ、ユリなどの食べ物や食材を誤って食べてしまうことを意味します。
誤飲・誤食が起きやすい犬や猫とは?
誤飲や誤食は特に好奇心旺盛な子犬や子猫に多く見られる傾向があります。若い頃の犬や猫は、「これは何だろう?」と口に入れて確かめようとするため、身の回りにある物が思わぬ事故の原因になることがあります。
また、食欲が旺盛な大型犬も要注意です。食べられる物かどうかを気にせず口にすることがあり、危険物を飲み込んでしまうケースも少なくありません。
犬と猫が誤食しやすい危険な物とその影響
犬や猫は、好奇心や食欲から思わぬ物を口にしてしまうことがあります。こうした誤食事故を防ぐためには、飼い主様が危険物の特性を理解し、環境を整えることが大切です。
以下では、誤食しやすい物とその危険性について詳しくご説明します。
・チョコレート
チョコレートは犬にも猫にも有害で、特にビターチョコレートやカカオ含有量の高い製品は注意が必要です。
摂取すると、興奮、震え、嘔吐を引き起こし、重症の場合は心臓発作に至る可能性があります。
・玉ねぎやネギ類
玉ねぎやネギ類は、犬にも猫にも共通して非常に危険な食材です。
これらを摂取すると、赤血球が破壊され、貧血や黄疸、最悪の場合は命に関わる状態に陥ることがあります。少量でも中毒症状を引き起こすため、料理中や食事中に注意が必要です。
・キシリトール
ガムやお菓子などに含まれるキシリトールは、犬だけでなく猫にとっても非常に危険です。摂取すると急激に低血糖を引き起こし、けいれんや昏睡状態に陥ることがあります。
・ぶどうとレーズン
ぶどうやレーズンは急性腎障害を引き起こす可能性があり、摂取量に関わらず危険です。
・ユリ科の植物(ユリ、スズランなど)
ユリ科の植物は、特に猫にとって致命的な危険性があります。葉や花粉を少し舐めただけでも急性腎障害を引き起こすことがあり、犬に対しても一部有害です。観葉植物として飾る際には、ユリ科は避けるようにしましょう。
・消臭剤、洗剤
消臭剤や洗剤を誤飲すると、消化器の炎症、嘔吐、下痢などを引き起こし、重症の場合は中枢神経障害を伴うことがあります。
・糸や紐類
特に猫は、遊び道具として糸や紐を口に入れやすい傾向があります。これらを飲み込むと腸に絡まり、腸閉塞や壊死を引き起こす可能性があります。遊び終わった後は片付けを徹底しましょう。
・ゴミ箱の中身(骨や腐った食べ物)
犬や猫がゴミ箱をあさることで、骨や腐敗した食べ物を誤食してしまうことがあります。骨は消化管を傷つける恐れがあり、腐った食べ物は食中毒の原因となるため、フタ付きのゴミ箱を使用するなどの対策を講じましょう。
すぐに病院に行くべき危険な誤飲ケース
愛犬や愛猫が危険な物を誤飲してしまったとき、迅速に正しい対応をすることが命を救うカギとなります。
特に以下のようなケースでは緊急性が高いため、すぐに行動することが必要です。
・電池を飲み込んだ場合
電池に含まれるアルカリ性化学物質は、消化管の内壁を腐食し、非常に危険な状態を引き起こします。特にボタン電池はサイズが小さく、愛犬や愛猫が誤って飲み込みやすい形状をしているため注意が必要です。
主な症状としては、嘔吐やよだれ、食欲不振、腹痛が挙げられます。これらの症状が見られた場合、放置すると消化管穿孔や内出血など命に関わる状態に発展する可能性が高まります。
・尖った物を飲み込んだ場合
針や爪楊枝、破片などの尖った物を誤飲すると、消化管や喉に刺さり、危険な状況を引き起こす可能性があります。刺さった部分では内出血が起こることがあり、さらに傷口から感染症が発生するリスクも高まります。また、動くことで体内の損傷がさらに広がる恐れがあるため、非常に注意が必要です。
症状には、嘔吐(血液が混じる場合があります)、食欲不振、便に血が混ざるなどがあります。
・紐状の物を飲み込んだ場合
ミシン糸やリボン、紐、おもちゃのゴムなどの紐状の物を誤飲すると、腸に絡まることがあり、「腸閉塞」や「腸管壊死」を引き起こす可能性があります。特に猫は紐状の物を好む習性があるため、注意が必要です。
腸に問題が生じると、繰り返し嘔吐する、便秘や下痢が続く、元気がなくなる、腹痛があるといった症状が現れることがあります。
・毒物を飲み込んだ場合
農薬や洗剤、アルコールなどの毒物は、神経系や臓器に直接ダメージを与え、短時間で重篤な症状を引き起こします。
毒物を誤飲した際に見られる主な症状としては、よだれ、震え、けいれん、ふらつき、意識消失などが挙げられます。
誤飲・誤食時の症状の違い
愛犬や愛猫が誤飲や誤食をしてしまった場合、その内容によって現れる症状や治療法が異なります。誤飲(異物)と誤食(有毒物)の違いを正しく理解し、迅速に対応することが重要です。
<誤飲(異物)による症状>
異物を飲み込んだ場合、主に消化管に関連した症状が現れます。消化管に異物が詰まると、嘔吐や食欲不振、腹痛、便秘が見られ、腸閉塞が進行することもあります。腸閉塞が重度の場合には緊急手術が必要になることもあります。また、消化管を傷つけるような物を飲み込むと、血便や血が混じった嘔吐といった症状が現れることがあります。
<誤食(有毒物)による症状>
有毒物を食べた場合は、毒物の種類によって異なる症状が現れます。
・神経系に影響する物質(チョコレート、キシリトールなど)
興奮、けいれん、意識混濁などの症状が見られることがあります。
・臓器に影響する物質(玉ねぎ、ユリなど)
嘔吐、下痢、黄疸、腎障害など、消化器系や臓器機能に関連した症状が現れることがあります。
誤飲・誤食時の治療法の違い
誤飲と誤食では、問題の原因や体への影響が異なるため、治療方法も変わります。異物は体内に存在する物理的な物質を取り除く必要があるのに対し、有毒物は体内に吸収された毒素を排出・無毒化し、症状を緩和する治療が中心となります。
<異物誤飲の治療法>
・画像診断:X線やエコーで異物の位置や大きさを確認します。
・内視鏡による除去:異物が胃内にとどまっている場合、内視鏡で除去することが可能です。
・外科手術:異物が消化管に進行している場合や内視鏡で取り出せない場合は、外科手術が必要になることもあります。
・自然排出:異物が小さく、害が少ない場合には自然に排出されるのを待つこともあります。ただし、この場合でも経過観察が必要です。
<有毒物誤食の治療法>
・催吐処置:誤食直後であれば、胃の内容物を吐き出させる処置を行います。
※ただし尖ったもの(竹串、骨、針など)、強アルカリ性(洗剤など)のものは催吐させることができないため要注意
・解毒処置:活性炭などを用いて毒物の吸収を抑える処置が行われます。
・輸液治療:腎臓や肝臓を保護し、毒素を体外へ排出するために点滴治療を実施します。
・対症療法:症状に応じてけいれんを抑える薬や鎮静剤を使用し、症状の緩和を目指します。
<動物病院での一般的な治療の流れ>
誤飲や誤食が疑われる場合、動物病院では以下のような手順で対応が進められます。
1.問診
誤飲・誤食した物の種類、量、時間を確認します。可能であれば、誤飲した物を持参してください。
2.診断
・血液検査:有毒物が全身に及ぼしている影響を評価します。
・画像診断:X線やエコーで異物の位置や大きさを確認します。
3.治療
・異物の場合は内視鏡や手術による摘出が行われます。
・有毒物の場合は解毒、輸液治療、対症療法が実施されます。
4.経過観察
治療後も、数日間は症状がぶり返さないか慎重に経過を観察する必要があります。
誤飲・誤食時の正しい応急処置
愛犬や愛猫が誤飲や誤食をしてしまった場合、飼い主様の冷静で迅速な対応が命を救うカギとなります。ただし、間違った処置をすると症状を悪化させる可能性があるため、適切な対応を心がけましょう。
① 状況を確認する
何をどのくらいの量、いつ誤飲・誤食したのかを確認します。包装紙や残りの物がある場合は保管し、後で獣医師に見せられるように準備しましょう。
② 動物病院に連絡する
誤飲や誤食が確認できたらすぐに動物病院に電話をし、状況を詳しく説明します。誤飲した物を持参する旨を伝えると診察がスムーズに進みます。
もし、かかりつけの病院が閉まっている場合は、緊急対応可能な施設を探し、対応を仰ぎましょう。
③ 安全な環境を確保する
誤飲・誤食後は愛犬や愛猫を落ち着かせ、無理に動かさないようにします。特に呼吸が乱れている場合やけいれんが見られる場合は、緊急対応が必要です。
④ 病院に到着するまでの準備
動物病院に向かう際には、愛犬や愛猫が安定した姿勢を保てるようにし、移動中に余計な刺激を与えないよう注意します。
また、移動中でも状態を観察し、異常があれば病院に到着次第すぐに伝えられるよう準備しておきます。
<獣医師に伝えるべき情報>
診察をスムーズに進めるために、以下の情報を正確に獣医師に伝えることが重要です。
・何を飲み込んだか:食品、化学物質、異物などの、誤飲・誤食した物の名前
・いつ飲み込んだか:約30分前、数時間前など
・どのくらいの量か:チョコレート1片、電池1個など
<無理に吐かせることは控えましょう>
尖った物(針や爪楊枝など)や腐食性の物(洗剤や電池など)を吐かせると、食道や口腔をさらに傷つける可能性があります。
また、吐いた物が気管に入ることで誤嚥を引き起こし、窒息やさらなる健康被害を招く恐れもあります。
吐かせるかどうかの判断は、必ず獣医師に相談してから行う必要があります。誤飲・誤食した物の種類や状況によって、吐かせることでかえって危険を伴う場合があるため、自己判断での処置は控えましょう。
誤飲・誤食を防ぐための予防対策
日常的に安全な環境を整えることで、誤飲・誤食のリスクを大幅に減らすことが可能です。
<室内の危険物の片付け方と収納方法>
・小物の管理
ゴム製品、針、爪楊枝、消しゴムなどの小さな物は、愛犬や愛猫が届かない引き出しや収納ボックスに保管してください。散らかさない習慣をつけることで、思わぬ事故を防げます。
・ゴミ箱の管理
フタ付きのゴミ箱を使用し、愛犬や愛猫がゴミ袋を引っ張り出せないように工夫しましょう。特に食品の廃棄物がある場合は注意が必要です。
・キッチンの整理
チョコレートや玉ねぎなどの危険な食品は、愛犬や愛猫が届かない高い場所や密閉容器に保管してください。キッチン全体を整理整頓し、調理中も愛犬や愛猫が近づかないようにしましょう。
・有毒な観葉植物は置かない
ユリやポトスなど、有毒な植物は愛犬や愛猫がアクセスできない場所に移動するか、家庭内での使用を避けてください。有毒植物のリストを確認し、安全な種類のみを選ぶことが大切です。
<犬種や猫の特性に応じた注意点>
・犬の場合
大型犬は届く範囲が広いため、テーブルやカウンター上に置いた物にも注意が必要です。危険物はしっかりと片付け、目の届く範囲での管理を徹底しましょう。
一方で、小型犬は床に落ちている小さな物(ボタンや小石など)を誤飲する可能性が高いため、床に物を置かない習慣をつけることが重要です。
・猫の場合
猫は高い場所に登る能力があるため、棚やカウンターの上にも危険物を置かないようにしてください。
特に紐や糸状の物には興味を示しやすいため、遊び道具として使用する際は目を離さず、安全に使用しましょう。
<SNSで流行している「ちゅーるアイス」などへの注意>
凍ったちゅーるやその容器は、誤飲や内臓損傷の原因になる可能性があります。硬い部分や尖った容器の角が愛犬や愛猫の体を傷つける恐れがあるため、与えるのは避けましょう。
凍らせたちゅーるを与える場合は、容器を使用せず、適切な食器に盛り付けてください。
まとめ
誤飲や誤食は、愛犬や愛猫にとって命に関わる大きな事故につながることがあります。そのため、飼い主様が日頃から注意を払い、適切な対策を取ることが何よりも大切です。
万が一誤飲や誤食が起きた場合は、まず落ち着いて状況を確認し、飲み込んだ物の種類や量、時間をしっかり把握しましょう。
ただし、自己判断で無理に吐かせることはかえって危険を招く可能性があるため、必ず動物病院に連絡し、獣医師の指示に従ってください。
もし不安なことや疑問があれば、早めにかかりつけの獣医師に相談し、正しい知識を持って対応することが大切です。
千葉県市原市の動物病院なら「姉ヶ崎どうぶつ病院」