コラム
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症例
犬と猫の誤嚥性肺炎|年を取って飲み込む力が弱まっているとなりやすい?
誤嚥性肺炎とは、食べ物や液体が本来入るべき食道ではなく、誤って気管に入ることで発生する肺炎のことです。
通常、嚥下機能(食べ物を咀嚼して食道に送り込む機能)が正常に働くことで、食べ物や液体が誤って気管に入ることは防がれていますが、何らかの原因で嚥下機能が低下すると、誤嚥が発生しやすくなります。
犬や猫ではそれほど頻繁に見られる病気ではありませんが、嚥下機能が低下するシニア期に入り嚥下機能が低下した場合や、強制給餌を行っている場合、または巨大食道症(食道が拡張する病気)で頻繁に吐き戻しをしていると、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
今回は、犬と猫の誤嚥性肺炎について、その原因や症状、診断法、治療法を詳しく解説します。
原因
口の中には無数の細菌が存在しており、咀嚼した食べ物にも多くの細菌が付着しています。通常、食べ物は嚥下によって食道に送られて気管には入らないため、気管や肺は無菌の状態が保たれています。
しかし、嚥下機能が低下して食べ物や異物が誤って気管に入ると、それに付着した細菌や物理的な刺激によって炎症が起こり、肺炎が引き起こされます。これが誤嚥性肺炎です。
誤嚥性肺炎の主な原因は以下の通りです。
・加齢による嚥下機能の低下・巨大食道症による吐き戻し
・意識レベルの低下時、麻酔中、または麻酔から覚める際の嘔吐
・誤った強制給餌や投薬
特に、嚥下機能が低下しているシニア期やフードを早食いする癖がある犬は注意が必要です。さらに、フレンチ・ブルドッグやパグなどの短頭犬種、巨大食道症や喉頭麻痺の既往歴がある場合も、誤嚥性肺炎のリスク因子となるため注意してください。
よくある誤嚥のケース
通常、嚥下機能が正常であれば誤嚥はほとんど起こりません。しかし、頻繁に誤嚥が見られる場合、何らかの原因で嚥下機能が低下している可能性があります。
また、誤嚥の発生には以下のようないくつか共通するパターンがあります。
・巨大食道症や喉頭麻痺の子が、うまく吐き出せずに誤嚥してしまうことがある
・高齢の犬や猫が横になったまま物を飲み込もうとする
・強制給餌を行って誤嚥してしまう
・年を取って飲み込む力が弱まり、誤嚥してしまう
・呼吸器疾患で咳をしながら飲み込むことで誤嚥してしまう
・フードを急いで食べ過ぎて誤嚥してしまう
これらのケースに当てはまる場合は、誤嚥性肺炎のリスクが高くなるため、特に注意が必要です。
症状
誤嚥性肺炎には、大きく分けて3つのステージがあります。
1、気道反応:誤嚥の初期には、気管や気管支に浮腫や収縮が見られます。
2、炎症反応:炎症細胞である好中球やマクロファージが炎症部位に集まり、肺血管の透過性が亢進します。炎症が強い場合は肺水腫(肺に血液の液体成分が溜まり、呼吸困難になる状態)になることがあります。
3、二次感染:細菌の二次感染により、細菌性肺炎が生じ、重症化します。
これらのステージによって症状は異なり、初期には咳や発熱などが見られますが、進行すると呼吸困難や元気・食欲の低下、ぐったりして動かないといった全身的な症状が現れます。
犬と猫で症状に大きな差はありませんが、猫の方が症状がはっきりしないことが多いです。進行しても咳や呼吸困難といった症状に気づきにくいため、特に注意が必要です。
誤嚥性肺炎に限らず、猫は体調が悪くなると隠れたり、元気や食欲が低下したりする傾向が強いので、これらのサインを見逃さないようにしてください。
診断方法
誤嚥性肺炎の診断は、以下の方法で行います。
・身体検査:発熱や咳があるか、呼吸数や肺音に異常がないかを確認します。
・血液検査:白血球数やCRP、SAAなどの炎症マーカー(炎症時に上昇する項目)に異常がないかを調べ、全身の状態を把握します。
・レントゲン検査:誤嚥性肺炎の場合、レントゲンで肺が白く映ります。特に右中葉、右前葉、左前葉後部に炎症が起こりやすいです。また、肺水腫の有無も確認します。
・超音波検査:肺炎に特徴的な所見や、吐出や嘔吐の原因となる疾患が腹部臓器にないかを確認します。
まれに、より正確に炎症部位の把握や、誤嚥性肺炎を引き起こす原因疾患を特定するために、全身麻酔をかけてCT検査を行うこともあります。
治療方法
誤嚥性肺炎は呼吸に直接影響し、命に関わるため、入院して集中的な治療を行うことが多いです。
主な治療方法は以下の通りです。
・酸素療法:呼吸状態が悪い場合に行います。
・抗菌薬の投与:細菌の二次感染を予防・治療するために必要です。
・輸液療法:体液の補充を行いますが、過剰な輸液は肺水腫を引き起こし、呼吸状態をさらに悪化させる可能性があるため、慎重に行います。
入院中はこれらの治療を行いながら、体力の回復を待ちます。
予防法
誤嚥性肺炎は飼い主様の工夫次第である程度予防することが可能です。
具体的には、横になったまま強制給餌を行わないようにすること、早食いを防ぐために専用の食器を使うこと、フードを少量ずつ与えることが挙げられます。また、定期的に健康診断を受けることも重要です。
さらに、巨大食道症や喉頭麻痺などの既往歴がある場合には、適切な治療を継続することが必要です。
これらの適切な食事管理や定期的な健康チェックが、誤嚥性肺炎の予防に繋がります。
まとめ
誤嚥性肺炎の多くは1週間程度で回復しますが、シニアの場合や治療が遅れた場合には重症化して命に関わることもあるため、決して油断はできません。
誤嚥性肺炎は呼吸に直接影響するため、早期発見と早期治療が治療成績に大きく影響します。もし、愛犬や愛猫の呼吸や普段の様子に違和感があれば、すぐに動物病院を受診してください。
千葉県市原市の動物病院なら「姉ヶ崎どうぶつ病院」
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症例
犬と猫の血小板減少症|皮膚のあざや粘膜の点状出血が見られたら要注意
血小板減少症とは、何らかの原因で止血の役割を持つ血小板が減少してしまい、さまざまな症状が現れる病気です。
この病気は、犬と猫の両方に見られますが、猫よりも犬での発生が多いと言われています。特にプードルやシー・ズー、マルチーズ、コッカー・スパニエルなどの一部の小型犬に多く見られることが知られています。
今回は、犬と猫の血小板減少症の原因や症状、診断法、治療法などについて詳しく解説します。
血小板の役割と正常値
血小板は赤血球や白血球と同様に、血液中に含まれる重要な成分です。出血が起きたときには、血小板が速やかに出血部位に集まり、止血の役割を果たします。
そのため、血小板が正常値より減少すると、体内で出血を止めることが難しくなってしまいます。
血液検査における血小板の正常値は、犬では15〜45万/μL、猫では15〜40万/μLとされています(各検査機関によって若干の違いがあります)。
ただし、キャバリア犬の場合、健康な状態でも生まれつき血小板数が少ないことがあり、これは血小板減少症とは異なります。
血小板数が基準値を下回ったからといって、すぐに血小板減少症と診断されるわけではありません。血小板数の推移や臨床症状を総合的に考慮して診断が行われます。
また、採血にかかる時間や手技によっても血小板数は大きく変動し、1回の血液検査だけでは判断できないため、正確に把握するためには複数回の検査や継続的な観察が必要です。
原因
血小板が減少する理由は複数考えられますが、よくある原因としては以下のものが挙げられます。
・免疫介在性血小板減少症(自己の免疫が血小板を攻撃してしまう)
・過度の出血
・播種性血管内凝固症候群
・骨髄疾患
・腫瘍
・その他の原因(感染症や中毒など)
犬と猫の血小板減少症は、その原因によって免疫介在性と続発性に分けることができます。
特に多いのが犬の免疫介在性血小板減少症で、体の防御機能である免疫機能が誤って自分の血小板を攻撃してしまうことで、血小板数が減少します。
一方、続発性血小板減少症とは、骨髄疾患、腫瘍、感染症、薬剤などの影響を受けて、二次的に発生するものです。
猫の場合、ウイルス感染症の後に血小板が減少することがありますが、その因果関係やなぜウイルス感染の後に血小板が減少するのかについては、まだ不明な部分も多いです。症状
血小板減少症の代表的な症状として、皮膚のあざ (紫斑)や粘膜の点状出血などの内出血が挙げられます。これは体内で常に起こっている微小な出血を、血小板が十分に止血できないために生じるものです。
特に、おなかや脇、股など皮膚が薄い部分や、歯茎の粘膜に現れることが多いですが、毛をかき分けて観察しないと気づきにくいこともあります。
さらに、症状が進行すると、元気や食欲がなくなり、嘔吐、血尿、血便などの症状が見られることがあります。
犬と猫で大きな症状の違いはありませんが、猫の場合は症状が見つけにくいことが多いです。元気がなくなって隠れがちになったり、食欲が低下したりすることがよくあります。
診断方法
内出血の兆候などから血小板減少症が疑われる場合、まずは血液検査を行い、赤血球や白血球を含む全ての血球成分の数を確認します。
また、血球の形に異常がないかを調べるために、少量の血液を薄く広げて顕微鏡で観察する血液塗抹検査を行います。さらに、レントゲン検査やエコー検査を行い、血小板減少症を引き起こす可能性のある他の病気が隠れていないかを確認します。
骨髄検査は全身麻酔をかけて太い骨に針を刺し、骨髄成分を取り出して評価する検査ですが、体への負担が大きいため、必ずしも行うわけではありません。骨髄の病気が疑われる場合や、血小板減少症の原因が特定できない場合に行うことが多いです。
また、必要に応じて血液の凝固機能検査や感染症の検査を行うこともあります。
治療方法
血小板減少症の治療は原因によって異なります。例えば、特定の病気が原因であれば、その病気を治療することで血小板減少も改善されることが多いです。
自己免疫が原因の場合は、ステロイドなどの免疫抑制剤を使用して、免疫の過剰反応を抑えます。免疫介在性溶血性貧血(免疫が赤血球を攻撃して貧血になる病気)の併発や、症状が重い場合は、入院して集中治療や輸血が必要になることもあります。
また、再発を繰り返す場合や、ステロイドが効かない場合は、脾臓を摘出する手術を検討することもあります。脾臓摘出は、血小板を破壊する主な場所を取り除くことで、血小板数の回復を目指す方法です。
予後と管理
残念ながら、血小板減少症を予防する確実な方法はありません。
予後は症例によって異なりますが、原因となる病気の治療がうまくいったり、免疫抑制剤が効果的に作用したりすれば、良い結果が期待できます。しかし、免疫抑制剤に効果がなく、免疫介在性溶血性貧血を併発した場合には、症状が悪化して最悪の場合、命を落とすこともあります。
免疫が関与している場合には、免疫抑制剤を継続的に使用することが非常に重要です。症状が良くなったからといって、自己判断で薬を中断したり通院をやめたりすると、再発して症状がさらに悪化することが多いので、自己判断での薬の中断は避けましょう。
*血小板数の推移を確認するために、継続的な通院が必要となることをご理解ください。
また自宅では、皮膚に内出血の症状が出ていないか、怪我の原因となるものがないかを定期的に確認しましょう。さらに、緊急時に備えて、近くの夜間救急病院やかかりつけ医が夜間対応をしているかどうかを事前に調べておくことも大切です。
まとめ
血小板減少症は、治療が遅れると命にかかわる危険な病気ですが、早期に免疫抑制剤などで適切に治療すれば、その後は安定した生活を送ることができます。
皮膚や粘膜に内出血や点状出血の兆候が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
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