コラム
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症例
犬と猫の誤嚥性肺炎|年を取って飲み込む力が弱まっているとなりやすい?
誤嚥性肺炎とは、食べ物や液体が本来入るべき食道ではなく、誤って気管に入ることで発生する肺炎のことです。
通常、嚥下機能(食べ物を咀嚼して食道に送り込む機能)が正常に働くことで、食べ物や液体が誤って気管に入ることは防がれていますが、何らかの原因で嚥下機能が低下すると、誤嚥が発生しやすくなります。
犬や猫ではそれほど頻繁に見られる病気ではありませんが、嚥下機能が低下するシニア期に入り嚥下機能が低下した場合や、強制給餌を行っている場合、または巨大食道症(食道が拡張する病気)で頻繁に吐き戻しをしていると、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
今回は、犬と猫の誤嚥性肺炎について、その原因や症状、診断法、治療法を詳しく解説します。
原因
口の中には無数の細菌が存在しており、咀嚼した食べ物にも多くの細菌が付着しています。通常、食べ物は嚥下によって食道に送られて気管には入らないため、気管や肺は無菌の状態が保たれています。
しかし、嚥下機能が低下して食べ物や異物が誤って気管に入ると、それに付着した細菌や物理的な刺激によって炎症が起こり、肺炎が引き起こされます。これが誤嚥性肺炎です。
の誤嚥性肺炎の主な原因は以下の通りです。
・加齢による嚥下機能の低下・巨大食道症による吐き戻し
・意識レベルの低下時、麻酔中、または麻酔から覚める際の嘔吐
・誤った強制給餌や投薬
特に、嚥下機能が低下しているシニア期やフードを早食いする癖がある犬は注意が必要です。さらに、フレンチ・ブルドッグやパグなどの短頭犬種、巨大食道症や喉頭麻痺の既往歴がある場合も、誤嚥性肺炎のリスク因子となるため注意してください。
よくある誤嚥のケース
通常、嚥下機能が正常であれば誤嚥はほとんど起こりません。しかし、頻繁に誤嚥が見られる場合、何らかの原因で嚥下機能が低下している可能性があります。
また、誤嚥の発生には以下のようないくつか共通するパターンがあります。
・巨大食道症や喉頭麻痺の子が、うまく吐き出せずに誤嚥してしまうことがある
・高齢の犬や猫が横になったまま物を飲み込もうとする
・強制給餌を行って誤嚥してしまう
・年を取って飲み込む力が弱まり、誤嚥してしまう
・呼吸器疾患で咳をしながら飲み込むことで誤嚥してしまう
・フードを急いで食べ過ぎて誤嚥してしまう
これらのケースに当てはまる場合は、誤嚥性肺炎のリスクが高くなるため、特に注意が必要です。
症状
誤嚥性肺炎には、大きく分けて3つのステージがあります。
1、気道反応:誤嚥の初期には、気管や気管支に浮腫や収縮が見られます。
2、炎症反応:炎症細胞である好中球やマクロファージが炎症部位に集まり、肺血管の透過性が亢進します。炎症が強い場合は肺水腫(肺に血液の液体成分が溜まり、呼吸困難になる状態)になることがあります。
3、二次感染:細菌の二次感染により、細菌性肺炎が生じ、重症化します。
これらのステージによって症状は異なり、初期には咳や発熱などが見られますが、進行すると呼吸困難や元気・食欲の低下、ぐったりして動かないといった全身的な症状が現れます。
犬と猫で症状に大きな差はありませんが、猫の方が症状がはっきりしないことが多いです。進行しても咳や呼吸困難といった症状に気づきにくいため、特に注意が必要です。
誤嚥性肺炎に限らず、猫は体調が悪くなると隠れたり、元気や食欲が低下したりする傾向が強いので、これらのサインを見逃さないようにしてください。
診断方法
誤嚥性肺炎の診断は、以下の方法で行います。
・身体検査:発熱や咳があるか、呼吸数や肺音に異常がないかを確認します。
・血液検査:白血球数やCRP、SAAなどの炎症マーカー(炎症時に上昇する項目)に異常がないかを調べ、全身の状態を把握します。
・レントゲン検査:誤嚥性肺炎の場合、レントゲンで肺が白く映ります。特に右中葉、右前葉、左前葉後部に炎症が起こりやすいです。また、肺水腫の有無も確認します。
・超音波検査:肺炎に特徴的な所見や、吐出や嘔吐の原因となる疾患が腹部臓器にないかを確認します。
まれに、より正確に炎症部位の把握や、誤嚥性肺炎を引き起こす原因疾患を特定するために、全身麻酔をかけてCT検査を行うこともあります。
治療方法
誤嚥性肺炎は呼吸に直接影響し、命に関わるため、入院して集中的な治療を行うことが多いです。
主な治療方法は以下の通りです。
・酸素療法:呼吸状態が悪い場合に行います。
・抗菌薬の投与:細菌の二次感染を予防・治療するために必要です。
・輸液療法:体液の補充を行いますが、過剰な輸液は肺水腫を引き起こし、呼吸状態をさらに悪化させる可能性があるため、慎重に行います。
入院中はこれらの治療を行いながら、体力の回復を待ちます。
予防法
誤嚥性肺炎は飼い主様の工夫次第である程度予防することが可能です。
具体的には、横になったまま強制給餌を行わないようにすること、早食いを防ぐために専用の食器を使うこと、フードを少量ずつ与えることが挙げられます。また、定期的に健康診断を受けることも重要です。
さらに、巨大食道症や喉頭麻痺などの既往歴がある場合には、適切な治療を継続することが必要です。
これらの適切な食事管理や定期的な健康チェックが、誤嚥性肺炎の予防に繋がります。
まとめ
誤嚥性肺炎の多くは1週間程度で回復しますが、シニアの場合や治療が遅れた場合には重症化して命に関わることもあるため、決して油断はできません。
誤嚥性肺炎は呼吸に直接影響するため、早期発見と早期治療が治療成績に大きく影響します。もし、愛犬や愛猫の呼吸や普段の様子に違和感があれば、すぐに動物病院を受診してください。
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症例
犬と猫の血小板減少症|皮膚のあざや粘膜の点状出血が見られたら要注意
血小板減少症とは、何らかの原因で止血の役割を持つ血小板が減少してしまい、さまざまな症状が現れる病気です。
この病気は、犬と猫の両方に見られますが、猫よりも犬での発生が多いと言われています。特にプードルやシー・ズー、マルチーズ、コッカー・スパニエルなどの一部の小型犬に多く見られることが知られています。
今回は、犬と猫の血小板減少症の原因や症状、診断法、治療法などについて詳しく解説します。
血小板の役割と正常値
血小板は赤血球や白血球と同様に、血液中に含まれる重要な成分です。出血が起きたときには、血小板が速やかに出血部位に集まり、止血の役割を果たします。
そのため、血小板が正常値より減少すると、体内で出血を止めることが難しくなってしまいます。
血液検査における血小板の正常値は、犬では15〜45万/μL、猫では15〜40万/μLとされています(各検査機関によって若干の違いがあります)。
ただし、キャバリア犬の場合、健康な状態でも生まれつき血小板数が少ないことがあり、これは血小板減少症とは異なります。
血小板数が基準値を下回ったからといって、すぐに血小板減少症と診断されるわけではありません。血小板数の推移や臨床症状を総合的に考慮して診断が行われます。
また、採血にかかる時間や手技によっても血小板数は大きく変動し、1回の血液検査だけでは判断できないため、正確に把握するためには複数回の検査や継続的な観察が必要です。
原因
血小板が減少する理由は複数考えられますが、よくある原因としては以下のものが挙げられます。
・免疫介在性血小板減少症(自己の免疫が血小板を攻撃してしまう)
・過度の出血
・播種性血管内凝固症候群
・骨髄疾患
・腫瘍
・その他の原因(感染症や中毒など)
犬と猫の血小板減少症は、その原因によって免疫介在性と続発性に分けることができます。
特に多いのが犬の免疫介在性血小板減少症で、体の防御機能である免疫機能が誤って自分の血小板を攻撃してしまうことで、血小板数が減少します。
一方、続発性血小板減少症とは、骨髄疾患、腫瘍、感染症、薬剤などの影響を受けて、二次的に発生するものです。
猫の場合、ウイルス感染症の後に血小板が減少することがありますが、その因果関係やなぜウイルス感染の後に血小板が減少するのかについては、まだ不明な部分も多いです。症状
血小板減少症の代表的な症状として、皮膚のあざ (紫斑)や粘膜の点状出血などの内出血が挙げられます。これは体内で常に起こっている微小な出血を、血小板が十分に止血できないために生じるものです。
特に、おなかや脇、股など皮膚が薄い部分や、歯茎の粘膜に現れることが多いですが、毛をかき分けて観察しないと気づきにくいこともあります。
さらに、症状が進行すると、元気や食欲がなくなり、嘔吐、血尿、血便などの症状が見られることがあります。
犬と猫で大きな症状の違いはありませんが、猫の場合は症状が見つけにくいことが多いです。元気がなくなって隠れがちになったり、食欲が低下したりすることがよくあります。
診断方法
内出血の兆候などから血小板減少症が疑われる場合、まずは血液検査を行い、赤血球や白血球を含む全ての血球成分の数を確認します。
また、血球の形に異常がないかを調べるために、少量の血液を薄く広げて顕微鏡で観察する血液塗抹検査を行います。さらに、レントゲン検査やエコー検査を行い、血小板減少症を引き起こす可能性のある他の病気が隠れていないかを確認します。
骨髄検査は全身麻酔をかけて太い骨に針を刺し、骨髄成分を取り出して評価する検査ですが、体への負担が大きいため、必ずしも行うわけではありません。骨髄の病気が疑われる場合や、血小板減少症の原因が特定できない場合に行うことが多いです。
また、必要に応じて血液の凝固機能検査や感染症の検査を行うこともあります。
治療方法
血小板減少症の治療は原因によって異なります。例えば、特定の病気が原因であれば、その病気を治療することで血小板減少も改善されることが多いです。
自己免疫が原因の場合は、ステロイドなどの免疫抑制剤を使用して、免疫の過剰反応を抑えます。免疫介在性溶血性貧血(免疫が赤血球を攻撃して貧血になる病気)の併発や、症状が重い場合は、入院して集中治療や輸血が必要になることもあります。
また、再発を繰り返す場合や、ステロイドが効かない場合は、脾臓を摘出する手術を検討することもあります。脾臓摘出は、血小板を破壊する主な場所を取り除くことで、血小板数の回復を目指す方法です。
予後と管理
残念ながら、血小板減少症を予防する確実な方法はありません。
予後は症例によって異なりますが、原因となる病気の治療がうまくいったり、免疫抑制剤が効果的に作用したりすれば、良い結果が期待できます。しかし、免疫抑制剤に効果がなく、免疫介在性溶血性貧血を併発した場合には、症状が悪化して最悪の場合、命を落とすこともあります。
免疫が関与している場合には、免疫抑制剤を継続的に使用することが非常に重要です。症状が良くなったからといって、自己判断で薬を中断したり通院をやめたりすると、再発して症状がさらに悪化することが多いので、自己判断での薬の中断は避けましょう。
*血小板数の推移を確認するために、継続的な通院が必要となることをご理解ください。
また自宅では、皮膚に内出血の症状が出ていないか、怪我の原因となるものがないかを定期的に確認しましょう。さらに、緊急時に備えて、近くの夜間救急病院やかかりつけ医が夜間対応をしているかどうかを事前に調べておくことも大切です。
まとめ
血小板減少症は、治療が遅れると命にかかわる危険な病気ですが、早期に免疫抑制剤などで適切に治療すれば、その後は安定した生活を送ることができます。
皮膚や粘膜に内出血や点状出血の兆候が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
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症例
犬と猫の熱中症について|暑い夏を安全に過ごすために!
日本の夏は高温多湿で、人間だけでなく動物も熱中症になる危険があります。
熱中症は重症化すると、多臓器不全や脳へのダメージによる後遺症など、命に関わる深刻な結果を招くことがあるため、治療よりもまず熱中症を予防することが非常に重要です。
今回は、犬と猫の熱中症の症状や原因、治療法、予防法などについて詳しく解説します。
熱中症とは
熱中症とは、高温の環境にいることで体温が急激に上昇し、重要な臓器が高温にさらされることによって発症する障害の総称です。
犬や猫の平均体温は38℃程度で人間よりも高いですが、熱中症になると40〜42℃まで体温が上がることがあります。
一度茹でた卵が、冷蔵庫で冷やしても元に戻らないように、熱中症で受けた細胞のダメージも不可逆的(治すことができない)です。そのため、治療よりも予防がとても重要なのです。
犬と猫は人間のように汗をかいて体温を下げることができません。また、全身が毛で覆われているため、熱中症になりやすいと言われています。
このような特徴を持つ愛犬や愛猫のために、しっかりとした予防策を講じることが必要です。
熱中症の症状
犬や猫の熱中症の主な症状は以下の通りです。
<初期症状>
・呼吸が荒くなる(犬の場合は舌を出して、ハッハッと呼吸をしている)
・よだれを多く垂らしている
・不安げな様子が見られる
特に犬は体温が上がると、汗をかく代わりにパンティングと呼ばれる「ハッハッ」と激しい口呼吸をします。これは暑がっているサインであり、熱中症の初期症状でもあるため、十分に注意してください。
<進行した時の症状>
・下痢や嘔吐
・めまい(ふらつき)
・虚脱(ショックの一種で、血圧低下、頻脈、チアノーゼなどが見られる状態)
<重度の症状>
・意識レベルの低下(呼びかけに反応しないなど)
・全身のけいれん
夏の散歩の後や車内に放置した後にこれらの症状が見られたら、熱中症の可能性が極めて高いです。
なお、車内に冷房をかけていても熱中症は発生しますので、愛犬や愛猫を車内に残すことは絶対に避けましょう。
熱中症の原因と危険因子
熱中症の主な原因は、高温多湿の環境にあります。
体温が急激に上昇しやすく、パンティングをしても効率的に体温を下げることができないため、熱中症になってしまいます。
さらに、高温多湿に加えて、夏場の激しい運動や興奮による活動量の増加、水分不足、肥満、高齢、健康問題を抱えていることも、熱中症の危険因子となります。
特に肥満や短頭種気道症候群、気管虚脱などの問題を抱えている場合、高温環境下で呼吸状態が悪化し熱中症にかかりやすくなりますので、これらの犬や猫には特に注意が必要です。
熱中症の予防法
熱中症を予防する最も効果的な方法は、高温多湿の環境をできるだけ避け、十分な水分補給を行うことです。
夏場は早朝や夜の涼しい時間帯に散歩をさせ、直射日光を避けるようにしてください。絶対に太陽が照りつける日中に散歩をさせることは避けましょう。
特に気温が高い日は、不必要な外出や運動を避け、散歩は最低限に留めましょう。外にいる時は、なるべく日陰を歩き、こまめに休憩を取り、水分補給を行ってください。
また、愛犬や愛猫の呼吸が荒い、よだれを多く垂らしている、不安げな様子が見られる場合は、熱中症の初期症状の可能性があります。その際は、速やかに涼しい場所へ移動し、動物病院を受診しましょう。
熱中症が疑われる場合の対処法
熱中症が疑われたら、まずは速やかに屋内や日陰などの涼しい場所へ移動させましょう。これ以上体温を上げないことが何よりも大切です。
次に、濡れタオルで体を拭いたり、水を体にかけて風を当てたりして体を冷やしてください。氷嚢がある場合はタオルで包み、首や太ももの内側に挟むと効果的です。
また、水を飲める場合はしっかりと水分補給をさせることも大切です。ただし、水を飲もうとしない場合は無理に飲ませないでください。
これらの応急処置が済んだら、速やかにかかりつけの動物病院または救急病院に事前に連絡し、獣医師の指示と診察を受けてください。
飼い主様ができる準備と対策
普段から愛犬や愛猫の様子を注意深く観察し、栄養バランスの取れた食事と十分な水分補給、そしてしっかりとした休息を徹底しましょう。
熱中症対策グッズの使用(クールマット、ペット用の冷却ベスト、小型扇風機など)や、エアコンを適切に使うことを意識してください。飼い主様が我慢できる暑さでも、愛犬や愛猫には危険な暑さになることがありますので、夏場はエアコンを常につけておくことをおすすめします。
また、犬の熱中症は車内に放置されることで発生するパターンが多いため、短い時間であっても車内に置き去りにせず、運転中も常にエアコンをつけましょう。
万が一に備えて、かかりつけ動物病院の診療時間や近くの救急病院の場所を調べておき、熱中症になった際にもすぐに獣医師と連携できる体制を整えておくことが大切です。
まとめ
熱中症は重症化すると命に関わることがあり、重篤な後遺症が残る恐ろしい病気です。しかし、飼い主様の行動次第で防ぐことができるため、予防が何よりも大切です。
熱中症予防は飼い主様の大きな責任であるとご認識いただき、夏場はエアコンを適切に使用し、早朝や夜の涼しい時間帯に散歩に行くなどして、愛犬や愛猫と共に快適で安全な夏を過ごしましょう。
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症例
犬と猫の白内障と核硬化症の違いについて|どちらも目が白く濁る病気
白内障は、水晶体のタンパク質が遺伝的な要因や後天的な原因(外傷性、代謝性、加齢性、続発性)で元に戻せないほど変性し、目が白く濁る疾患です。
核硬化症は、水晶体の中心にある水晶体核が加齢に伴って硬くなり、青みを帯びて白く見える状態です。核硬化症は白内障と見た目が似ていますが、これは加齢による変化であり病気ではありません。
今回は、犬と猫の白内障と核硬化症の違いについて詳しく解説します。
白内障について
正常な水晶体は透明で、目に入った光を屈折させてピントを調節し、網膜上に像を結ぶカメラのレンズのような機能を持っています。
水晶体のタンパク質が加齢、遺伝、糖尿病などの基礎疾患による影響で不可逆的に変性し、白濁化します。
白内障の初期症状としては、以下が挙げられます。
・急に段差や階段を踏み外すようになる
・光に敏感になる
・前足で目を擦るような行動が増える
・暗い場所での行動に躊躇するようになる
白内障は文字通り目が白く濁りますが、初期段階では水晶体の一部のみが白濁化するため、視覚への影響はほとんどなく、痛みや不快感もありません。
しかし、進行すると「成熟白内障」や「過熱白内障」の段階に移行します。
・成熟白内障:この段階では、水晶体のほぼ全体が白く濁り、正常に見ることが困難になります。
・過熟白内障:さらに進行した段階で、水晶体が融解し、脱臼することもあります。この状態では、水晶体タンパク質が溶け出してぶどう膜炎を引き起こすことがあり、痛みを伴うこともあります。
白内障の進行に伴い、いくつかの続発性疾患のリスクが高まります。
特に注意すべきなのは、緑内障、ぶどう膜炎、水晶体脱臼です。緑内障は眼圧の上昇により視神経が障害される深刻な疾患で、白内障の進行や手術後に発症するリスクがあります。ぶどう膜炎は先述の通り過熟白内障で起こりやすく、水晶体脱臼も白内障の進行に伴って発生する可能性があります。これらの続発性疾患は早期発見と適切な治療が重要です。
白内障の診断には、まず身体検査や対光反射、威嚇瞬目反応、綿球落下試験などの神経学的検査を行い、視覚の状態を確認します。その後、散瞳剤を使用して瞳孔を広げ、スリットランプを用いて水晶体の白濁の度合いを評価します。
治療方法としては、以下のものがあります。
・薬物療法:ピレノキシン点眼薬を使用します。これは初期段階での進行を遅らせるために有効です。
・外科治療:角膜を切開して超音波乳化吸引装置を用いて白く濁った水晶体を吸引し、水晶体嚢内に人工の犬用眼内レンズを挿入します。
基本的に白濁化した水晶体を元の状態に戻すことはできないため、白内障が成熟白内障や過熱白内障まで進行し視力を失った場合は、外科手術が唯一の治療法となります。
※場合によっては外科手術が非適応になるケースもあります
核硬化症について
核硬化症とは、水晶体の中心にある水晶体核が加齢に伴って変性し硬くなり、青みを帯びて白く見える状態です。名前に「症」という漢字が含まれているため、病気と思われがちですが、これは加齢による自然な変化であり、厳密には病気ではありません。
白内障とは異なり、核硬化症では水晶体の透過性は低下しないため、視力を失うことはありません。そのため、主な症状は飼い主様が、目が白いことに気が付く程度です。
核硬化症の診断は、見た目だけでは白内障と核硬化症の区別が難しいため、スリットランプ検査が必要です。スリットランプ検査とは、スリット光という細い光で眼球の各部を照らし、それを顕微鏡で拡大して観察する検査です。
核硬化症で白くなった水晶体核を元に戻す治療法はありませんが、そもそも加齢性の変化であるため治療は必要ありません。
白内障と核硬化症の違い
白内障と核硬化症は、どちらも目が白く見える症状を引き起こしますが、その原因と影響は大きく異なります。
白内障 核硬化症 原因 ・水晶体タンパク質の不可逆的な変性と混濁により発生 ・加齢に伴う水晶体核の変性により発生 症状 ・進行すると水晶体の大部分が白濁し、視覚を失うことがある ・水晶体タンパク質の溶解によりぶどう膜炎を引き起こすことがある
・加齢に伴って水晶体核が白濁するが、視覚を失うことはない ・ぶどう膜炎などの合併症は起こらない
診断方法 ・身体検査と神経学的検査で視覚確認 ・スリットランプ検査で水晶体の光透過性や境界を確認
治療方法 ・点眼薬や外科治療を行う ・治療はせず経過観察が主な対応 予後 ・適切な治療を受ければ良好 ・放置すると視力喪失や重度の組織変性を引き起こし、最終的には眼球癆に至る可能性がある
・非常に良好で、特別な治療は不要、経過観察で問題なし 予防と早期発見の重要性
白内障と核硬化症を飼い主様が判断することは難しいため、動物病院での眼科検診を含む全身的な健康診断を定期的に受けることが何よりも大切です。
白内障は初期に発見し治療を開始できれば、点眼薬や抗酸化作用のあるサプリメントの使用により、進行を遅らせる可能性があります。
※ただし、効果には個体差があり、全ての症例で効果が見られるわけではありません。
普段から愛犬や愛猫の目の状態を注意深く観察し、目が少しでも白く濁っていると感じたり、目を引っ掻いたり壁や床に擦り付ける様子が見られれば、すぐに獣医師に相談してください。
まとめ
白内障は加齢や遺伝的な要因、糖尿病などによって水晶体が白く濁る病気です。
一方、核硬化症は水晶体核が加齢に伴い変性する自然な加齢性変化であり、厳密には病気ではありません。これが最も重要なポイントです。
白内障は放置すると失明の恐れがあるため、動物病院で適切な治療を早期に受けることが大切です。
眼の病気は軽視されがちですが、眼は生活の質に大きく影響する非常に大切な器官なので、普段から定期的に健康診断を受け、愛犬や愛猫の眼の健康を維持しましょう。
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症例
犬の会陰ヘルニアについて|お尻の周りが腫れている?
「ヘルニア」と聞くと、椎間板ヘルニアをイメージする方が多いと思いますが、「ヘルニア」という言葉自体は臓器が本来の正しい場所から飛び出ている状態を指します。
会陰ヘルニアは、会陰部と呼ばれる肛門周囲の筋肉が萎縮して隙間ができ、その隙間に直腸や膀胱、前立腺などの臓器が飛び出してしまう病気です。
今回は犬の会陰ヘルニアの原因や症状、診断法、治療法などについて詳しく解説します。
原因
会陰ヘルニアは、肛門周囲の筋肉の構造異常によって発生します。正常な状態では、これらの筋肉は密接に連携して肛門の構造を支えていますが、何らかの理由でこれらの筋肉が萎縮し、縮んで薄くなると、筋肉同士の間に隙間が生じます。
この隙間から臓器や脂肪が突出し、肛門の周囲が膨らむことで会陰ヘルニアが形成されます。
会陰ヘルニアの直接的な原因はまだ明確には解明されていませんが、未去勢の中高齢のオス犬に多く見られることから、男性ホルモンが発症に関与していると考えられています。
特にミニチュアダックスフンド、ポメラニアン、コーギーなどの小型犬が好発犬種とされています。
また、慢性的な咳や吠え癖のある犬は腹圧が高まりやすく、お尻に力を入れやすい状態を引き起こすため、会陰ヘルニアの発症リスクが高くなるとされています。
症状
一般的にヘルニア孔から腸管が飛び出すことが多くありますが、飛び出す臓器によって症状は様々です。
<腸管が飛び出した場合の症状>
・便秘やしぶり(排便困難):腸管の一部が飛び出してしまうと、腸の動きが妨げられ、便秘や排便時の困難が生じます。
・肛門周囲の膨らみ:ヘルニア孔から腸管が飛び出し、お尻が膨らんで見えることがあります。これにより、しっぽや肛門の位置が異常になることもあります。
・直腸憩室の形成:ヘルニアが進行すると、直腸の一部が袋状に拡張し、そこに便が溜まるようになります。
・直腸破裂:溜まった便が原因で直腸が破裂すると、便に含まれる細菌が血流に入り、敗血症を引き起こし、最悪の場合死に至る危険性があります。
<膀胱が飛び出した場合の症状>
・排尿障害:膀胱が部分的にヘルニア孔から突出すると、尿の排出が困難になります。これが続くと膀胱の機能が低下し、排尿時の痛みや不快感が生じることがあります。
・腎不全:排尿障害が長引くと尿が膀胱に逆流し、腎臓に負担をかけることがあります。これが原因で腎不全に進行することもあります。
尿が出ないなどの症状がある場合はすぐに動物病院を受診しましょう。
診断方法
会陰ヘルニアはその特徴的な見た目からある程度視診や触診で診断することが可能です。
一方で、身体検査だけでどの臓器が飛び出しているか正確に判断することはできないので、レントゲン検査やエコー検査を実施します。
膀胱や腸管が飛び出している場合は、それぞれ腎不全や敗血症になっていないか確認するために血液検査を行うこともあります。
治療方法
会陰ヘルニアの治療においては、根本的な解決を目指す場合、外科手術が最も効果的な方法とされています。
内科的治療は溜まった便をかき出したり、便を柔らかくする薬を用いたりすることがありますが、病気自体を治すわけではないため、以下の手法が一般的に採用されます。
・外科手術
手術では、飛び出した臓器を元の正しい位置に戻し、筋肉の隙間を塞ぎます。
・去勢手術
会陰ヘルニアの発症に男性ホルモンが影響している可能性があるため、未去勢のオス犬に対しては、再発防止のためにヘルニアの手術と同時に去勢手術を行います。
会陰ヘルニアは、研究ごとに数値に幅はあるものの、約30%のケースで術後に再発することが報告されています。
また、会陰ヘルニアは両側性疾患であるため、一方の筋肉を修復した後、もう一方の筋肉が緩むことで新たなヘルニアが形成されることがあります。
再発を防ぐため、当院ではヘルニア孔の閉鎖だけでなく、精管と結腸の腹壁固定を含む手術を必要に応じて実施しています。
予防法やご家庭での注意点
去勢手術を早期に行うことは、会陰ヘルニアや前立腺肥大などの病気の予防につながります。
また、慢性的な咳や吠え癖があると腹圧が高まり、会陰ヘルニアを発症することがあるため、これらの症状が見られる場合は早めに獣医師にご相談ください。
まとめ
会陰ヘルニアは、会陰部と呼ばれる肛門周囲の筋肉が萎縮して隙間ができ、その隙間に直腸や膀胱、前立腺などの臓器が飛び出してしまう病気です。男性ホルモンの関与が疑われており、早期の去勢手術が予防に効果的だと考えられています。
外科手術が基本となりますが、再発の可能性もありますので、手術後は愛犬の排便や排尿の様子をこまめに観察し、適切なケアを心がけましょう。
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症例
犬と猫の歯周病について|ご自宅での歯磨きが大切
歯周病は犬や猫の疾患の中でも特に頻繁に見られる疾患で、実際に犬では約80%が、猫では約70%が3歳までに歯周病を発症しています。
歯周病が進行すると心臓や脳、腎臓など全身の臓器に悪影響を及ぼすため、歯周病予防は極めて重要です。
今回は犬と猫の歯周病の原因や症状、診断法、治療法などについて詳しく解説します。
原因
口腔内には数多くの細菌が生息しており、特に歯周病の原因となるのは歯周病原性細菌です。
歯磨きが不十分だと、食べかすが歯の表面に付着し、その中で細菌が繁殖して歯垢となります。この繁殖した歯周病原性細菌が分泌する酵素により、歯周組織は徐々に破壊されていきます。
歯周病の発症には、細菌因子だけでなく、宿主因子(犬や猫の免疫機能など)や環境因子(栄養状態やストレスなど)も関わっており、これらが互いに影響し合って病気が進行します。
歯が痛くなると歯磨きを余計に嫌がり、歯周病の悪化へとつながるため、日頃から歯磨きを行い、歯周病の発症を予防することが大切です。
症状
歯周病は大きく分けて、歯肉炎と歯周炎の2つのステージに分類されます。
歯肉炎は、歯周病の初期段階であり、主に歯肉に炎症が生じた状態を指します。
代表的な歯肉炎の症状として、以下が挙げられます。
・歯肉の炎症 (赤みや腫れ、痛み)
・歯肉から出血しやすくなる
・口臭がする
多くの飼い主様は、この初期の段階では症状に気付かないことがありますが、放置すると病状は確実に進行し、歯肉炎はより深刻な歯周炎へと進展します。
歯周炎は炎症が歯肉だけでなく、歯槽骨やその周囲の組織にも及びます。
代表的な歯周炎の症状は、以下の通りです。
・歯肉の強い腫れ
・歯肉から黄色や白色の膿が出る
・強い口臭がする
・口の痛みによる食欲不振
・歯のぐらつきや抜け落ち
・口周辺の顔が腫れる (歯周炎による炎症が顔にまで及ぶため)
重度の歯周病では、歯槽骨という歯の土台となる骨が溶け、骨髄炎や顎骨の骨折といったさらに深刻な問題へと進行することがあります。
診断方法
歯周病は歯の表面の汚れに関するものだけではなく、歯とその周囲の組織全体を巻き込む病気です。
そのため、診断には歯肉や歯根膜、さらには歯周ポケットの深さなど、複数の要素を総合的に評価する必要があります。
肉眼で見ることができるのは歯の表面と歯肉の状態に限られるため、より正確な診断を行うためには全身麻酔下での詳細な口腔検査が必要となります。
口腔検査では、主に以下の項目を実施・確認します。
・歯垢と歯石の付着状態
・歯肉の炎症の程度
・歯のぐらつき程度
・歯周組織の破壊程度
・歯周ポケットの深さ
・口腔内X線検査
外見上は歯が綺麗に見えることもありますが、実際には歯周組織の状態、歯のぐらつき具合、歯周ポケットの深さなどを確認した結果、抜歯せざるをえないケースもあります。
治療方法
歯周病治療の基本は全身麻酔下での超音波スケーリングによって付着した歯垢・歯石を除去することと、ハンドスケーリングによって歯周ポケットの汚れ(歯垢と歯石)を除去することです。
無麻酔でのスケーリングは表面的な汚れしか取ることができない上に、動物に強い痛みと恐怖感を与えるため推奨されていません。
基本的には歯を温存するように治療を行いますが、歯槽骨に炎症が及び、歯がぐらついている場合は抜歯の必要があります。
スケーリングの手順は、以下の通りです。
①全身麻酔をかける前に、血液検査や身体検査を行います。
②体調に問題がなければ、全身麻酔をかけます。
③口腔内のレントゲン検査を行った上で歯周プローブを用いて、歯槽骨の吸収状態を確認し、抜歯が必要な歯を特定します。
④超音波スケーラーという特殊な機械を用いて、歯垢や歯石を除去します。
⑤必要に応じて抜歯を行います。
⑥残った歯に対して、キュレットスケーラーという機械を用いてルートプレーニングを行い、歯周ポケットの汚れを除去します。
⑦最後に、歯の表面を滑らかにして歯垢が再び付着しづらくなるために、歯面研磨(ポリッシング)を行います。
スケーリング後は飼い主様への歯磨き指導を行い、ご自宅でも適切な口腔ケアを行っていただきます。
また、インターベリーという薬を使用することで、免疫担当細胞を活性化し、歯周病原細菌を減らして歯肉炎を改善します。
予防法やご家庭での注意点
歯周病を予防するためには、家庭での日常的な歯磨きが非常に重要です。
特に、幼い頃から歯磨きの習慣をつけることで、愛犬や愛猫がデンタルケアに慣れ、日々のお手入れが格段にやりやすくなります。
もし歯磨きをどうしても嫌がる場合は、まずは口や歯に触られることに慣れさせることから始めましょう。
口や歯に触らせてくれたら、大好きなおやつを少しあげて思いっきり褒めることで、ポジティブな印象を持たせることができます。
当院では歯磨きのやり方についてのパンフレットや歯ブラシのご用意もありますのでお気軽にご相談ください。
また、ドライフードやデンタルガムを使用することも、歯に付着した歯垢を自然に落とすのに役立ちます。これらの製品は噛むことで歯垢が落ちやすくなるため、獣医師と相談の上、愛犬や愛猫に適したドライフードへの切り替えやデンタルガムの導入を検討してみるのもおすすめです。
まとめ
歯周病は犬と猫で一般的な疾患ですが、正しい口腔ケアによって予防することが可能です。
毎日の歯磨きを習慣化し、定期的な健康診断を受けることで、口腔環境を常に清潔に保つことが重要です。これは、歯周病の予防だけでなく、全身の健康状態を維持することにもつながります。
歯磨きに関してご不安なことがありましたら、当院にご相談ください。
また、当院では2024年6月1日から8月31日までスケーリング(歯石除去)キャンペーンを実施いたします。
通常の費用より20%割引でスケーリングを受けることが可能ですので、この機会にぜひご検討ください。
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症例
犬の僧帽弁閉鎖不全症について|愛犬が咳や息切れをしていたら要注意
僧帽弁とは心臓の左心房と左心室を隔てる弁で、心臓内で血液の逆流を防ぐ役割を担っています。
しかし、何らかの原因で僧帽弁が厚く変形したり、僧帽弁を支える組織に異常が起きたりすると、血液が逆流してしまい、この状態を「僧帽弁閉鎖不全」と呼びます。
今回は犬の僧帽弁閉鎖不全症の原因や症状、診断法、治療法などについて詳しく解説します。
原因
犬の僧帽弁閉鎖不全症は、加齢などで僧帽弁に変性が起こり、その動きが鈍くなることが原因と言われています。
僧帽弁閉鎖不全症の全ての原因は完全には解明されていないものの、チワワ、プードル、ポメラニアン、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなどの小型犬種で頻繁に発症することから、遺伝的な要因が関与している可能性が高いとも考えられています。
症状
僧帽弁が正常に機能しなくなり心臓内で血液が逆流すると、左心房は肺から送り込まれる血液と逆流してきた血液の両方を受け入れることになり、過剰な血液によって容量オーバーの状態となります。
この結果、左心房は負荷により拡大します。
初期段階では、心臓は心拍数を増やすことで拡大した左心房の負担に対抗し、心拍出量の低下を補おうとしますが、病状が進むと心臓はこの負荷に耐えられなくなり、心不全を引き起こします。
アメリカ獣医内科学会 (ACVIM)は、犬の僧帽弁閉鎖不全症の進行具合を以下の5つの段階に分類しています。
・Stage A:現時点で心臓に異常はないが、今後僧帽弁閉鎖不全症になるリスクの高い犬種。
・Stage B1:心雑音、僧帽弁の変性、僧帽弁逆流が認められるが、心拡大を認めないもの。
・Stage B2:心雑音、僧帽弁の変性、僧帽弁逆流が認められ、心拡大を認めるもの。
・Stage C:咳や息切れなどの臨床症状があり、鬱血性心不全徴候(肺水腫)があるもの。
・Stage D:標準的な治療に反応しない難治性心不全を示すもの。
ステージA、B1、B2の初期段階では咳や息切れといった特徴的な症状を示さず、ほとんどが無症状です。
しかし病気が進行すると、拡大した心臓が気管を下から押し上げるため、咳や息切れといった最初の症状が見られます。
病状がさらに進行すると、息苦しさ、運動不耐性(少しの運動で疲れやすくなる)元気消失、肺水腫による呼吸困難、失神といった症状が現れます。
診断方法
僧帽弁閉鎖不全症の診断は聴診、レントゲン検査、超音波検査など、複数の方法で行われます。
聴診で心音の確認をする際に、僧帽弁の機能が低下して血液の逆流が起きると特徴的な心雑音が聴取されます。
レントゲン検査では心臓の形や大きさ、さらには肺水腫の有無などを確認します。
さらに、超音波検査では僧帽弁の動き、僧帽弁の厚さ、血液逆流の有無など、より詳細な情報をリアルタイムで確認します。
これらの検査結果を総合的に判断し、症状の程度や進行具合に応じた診断とステージ分類を行います。
当院では心雑音が確認された場合、心臓のどの部分から雑音が出ているのかを特定し、定期的に診断を受けてもらうようお勧めしております。
また、循環器専門の獣医師が定期的に診察を行っているため、専門的な診療が可能なのに加えて、院内でも定期的にセミナーを実施し、病院全体で循環器診療の方針を定めております。
そのため、循環器専門医が不在のタイミングでも、他の獣医師が診察を行える体制を整えており、循環器疾患でお困りの場合はいつでもご相談いただけます。
治療方法
僧帽弁閉鎖不全症の治療は病状の進行度に応じて異なり、一般的にはStage B2の段階で治療を開始します。各ステージでのアプローチは以下の通りです。
・Stage A:現時点で心臓に異常はないため、治療の必要はありません。1年に1回は心臓の定期検査を受けましょう。
・Stage B1:薬による治療は行わず、経過観察を行います。定期的にレントゲン検査や超音波検査を実施してステージが進行していないか確認します。
・Stage B2:ピモベンダンという強心薬を用いて内科的治療を開始します。Stage B2からピモベンダンの内服を開始することで、肺水腫を発症するまでの期間を遅らせることができると報告されています。
・Stage C:強心薬に加えて、肺水腫治療のために利尿剤を併用します。肺水腫による呼吸困難が見られる場合は酸素投与による呼吸管理も実施します。
・Stage D:高用量の利尿剤、ピモベンダン、降圧剤などを用いてQOLの改善を狙いますが、十分な治療効果が得られないことがほとんどです。緩和ケアが治療選択肢として考慮されることもあります。
これらの内科治療は症状の進行を遅らせるためのものであり、完治させる治療ではありません。
腱索再建や弁輪縫縮などの外科手術により、僧帽弁を再建すれば完治できる可能性がありますが、外科手術にはリスクが伴い、適応症例も限られています。外科手術を検討する場合は、まず循環器の専門医と相談することが大切です。
予防法やご家庭での注意点
僧帽弁閉鎖不全症に対する有効な予防法は確立されていないため、心臓の状態を早期に把握して病気の進行を遅らせるためには、定期的な健康診断が非常に重要です。
また、肥満は心臓に負担をかけるため、適切な食事と適量の運動によって太らせないことを心がけてください。特に好発犬種や中高齢の犬は僧帽弁閉鎖不全症のリスクが高いため注意しましょう。
まとめ
僧帽弁閉鎖不全症は犬における循環器疾患の中で特に一般的なもので、僧帽弁の機能障害により心臓内で血液が逆流する状態が生じます。この病状を早期に発見し治療を始めることで、病気の進行を遅らせることが可能です。それにより、愛犬の健康寿命を伸ばすことができます。
ご家庭では、日頃から愛犬の呼吸の状態や普段の様子を観察して、少しでも異変を感じたら獣医師にご相談ください。
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症例
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)について
副腎皮質機能亢進症、別名クッシング症候群は、副腎皮質ホルモンが過剰に産生される疾患です。
副腎皮質ホルモンは、肝臓での糖新生や筋肉でのたんぱく質代謝を促進し、抗炎症・免疫抑制などの作用があり、生命を維持するために重要な役割を果たしています。
そして、体内で副腎皮質ホルモン、特にコルチゾールのレベルが異常に高くなることによって様々な症状が現れます。
今回は、犬の副腎皮質機能亢進症の原因や症状、診断方法、治療法などについて詳しく解説します。
原因
副腎からのコルチゾール分泌量は、下垂体という脳の一部の器官から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって調節されています。しかし、調節機構が異常をきたすと、過剰なコルチゾール分泌を引き起こします。
副腎皮質機能亢進症の原因は大きく3種類に分けられます。
・脳の下垂体腫瘍によるもの(下垂体性副腎皮質機能亢進症)
下垂体に発生した腫瘍がACTHを過剰に分泌することで、副腎が過剰にコルチゾールを産生します。
・副腎の腫瘍によるもの(副腎性副腎皮質機能亢進症)
副腎自体に発生した腫瘍が直接的にコルチゾールを過剰に産生します。
・ステロイド製剤によるもの(医原性副腎皮質機能亢進症)
コルチゾールと同様の働きをするステロイド薬(プレドニゾロンなど)を長期的に服用することで生じます。
副腎皮質機能亢進症は特に中齢から高齢の犬に多く見られる疾患であり、早期発見と適切な治療が症状の管理と健康維持に非常に重要です。
症状
副腎皮質機能亢進症の主な症状は以下の通りです。
・多飲多尿
・お腹の周りが膨らむ(お腹の筋肉が痩せて脂肪がつきやすくなり、肝臓も肥大するため)
・皮膚や毛が薄くなる
・抜け毛が増える
・皮膚の石灰沈着
・傷が治りにくくなる
・呼吸が荒くなる
特に下垂体性副腎皮質機能亢進症では、下垂体の腫瘍が成長して中枢神経に影響を及ぼすことがあり、その結果、神経症状が現れる場合があります。
一方で、副腎性副腎皮質機能亢進症では、副腎の腫瘍が大きくなり過ぎると周囲の太い動脈を巻き込む危険があり、これが腹腔内出血や突然死のリスクを高めることがあります。
診断方法
診断は、問診・身体検査・血液検査・尿検査・超音波検査などを用いて総合的に行います。
・問診:多飲多尿など、症状の有無を確認します。
・身体検査:お腹の周りの膨らみ具合や皮膚、毛並みの状態などを確認します。
・血液検査:ACTH刺激試験、デキサメタゾン抑制試験などで血中のホルモン濃度を測定します。
・尿検査:尿比重や尿中コルチゾール/クレアチニン比などを測定します。
・超音波検査:副腎の形や大きさを確認します。
下垂体性を疑う場合は脳のCT検査やMRI検査を、副腎性を疑う場合は腫瘍の浸潤具合の評価や手術計画を立てるために追加で腹部のCT検査やMRI検査を行うことがあります。
治療方法
治療は種類によって異なります。
・下垂体性副腎皮質機能亢進症の場合
外科手術、内科治療、放射線治療などが選択肢としてあげられますが、当院では主に内科治療を中心としています。
具体的には、副腎皮質ホルモン合成阻害剤であるトリロスタンを使用し、症状の改善を図ります。
・副腎性副腎皮質機能亢進症の場合
腫瘍の転移が見られない場合は、腫瘍化した副腎を取り除く外科手術が最も効果的な治療方法とされています。下垂体性の治療と同様、トリロスタンを用いて内科治療も同時に行います。
治療方針に関しては、飼い主様とご相談のうえ決定していきます。
予防法とご家庭での注意点
医原性の場合を除き、副腎皮質機能亢進症に有効な予防法は存在しないため、病気の早期発見と早期治療が非常に重要です。
この病気は肝臓、心臓、腎臓など、様々な臓器に影響を及ぼす可能性が高いため、未治療のまま放置すると愛犬の健康状態を損なうことに繋がります。
まとめ
副腎皮質機能亢進症は、副腎からコルチゾールが過剰に産生される疾患です。
この疾患の原因は、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、医原性の3つに分けられ、多飲多尿・お腹の周りの膨らみ・皮膚や毛が薄くなるなど様々な症状が現れます。
有効な予防法はないため、かかりつけの動物病院で定期的に健康診断を受診し、病気の早期発見・早期治療を心がけましょう。
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症例
犬の消化管内寄生虫について|愛犬を寄生虫から守るポイント
消化管内寄生虫とは、主に胃や小腸などの消化器官に潜む寄生虫のことを指します。特に犬においては、こうした寄生虫による感染がしばしば見られ、下痢をはじめとする様々な健康問題の原因になり得えます。
加えて、寄生虫の種類によっては消化器官だけでなく、他の部位にも寄生するので十分な注意が必要です。
今回は、犬の消化管内寄生虫について、原因や症状から、診断方法、治療方法、予防法などに至るまで詳しく解説します。
原因
犬の消化管内寄生虫感染の主な原因は、外部環境からの感染です。
もっとも多いのは寄生虫に感染した他の犬の糞と接触し、寄生虫の卵や幼虫を体内に取り込んでしまうケースです。特に、ブリーダーやペットショップなど、多くの犬が密集して生活している環境では、その場にいるすべての犬に感染が拡大する可能性があります。
また、母犬から子犬への感染も見られます。これは、寄生虫に感染している母犬が妊娠や出産をした際に、胎盤や母乳を介して子犬に感染します。
胎盤を通じた感染を「胎盤感染」、母乳を通じた感染を「経乳感染」や「乳汁感染」と呼びます。
寄生虫感染は、衛生管理が行き届いた環境でも起こり得ます。初期段階では症状が現れないことが多く、消化管内寄生虫はノミやマダニのように目で確認しにくいため、発見するのは難しいことがあります。さらに、寄生虫は人間にも感染することがあるため、動物への定期的な対策と駆虫が非常に重要です。
症状
消化管内寄生虫の感染による症状は様々ですが、一般的なものには下痢、嘔吐、食欲不振、体重減少、血便、呼吸器に関わる問題、そして毛並みの劣化などが挙げられます。
また、感染が進行すると脱水や栄養失調などの深刻な病態を引き起こすこともあります。
特に、免疫力が弱く体力のない子犬期に消化管内寄生虫に感染すると、重症化のリスクが高いため、注意が必要です。
消化管内部寄生虫のうち代表的なものとしては、回虫(かいちゅう)や鞭虫(べんちゅう)、原虫(げんちゅう)、糞線虫(ふんせんちゅう)、鉤虫(こうちゅう)が挙げられます。
それぞれの寄生虫の特徴や寄生して引き起こす症状について紹介します。
<回虫(かいちゅう)>
消化管内寄生虫の一つである「回虫」は、長さ4〜18cm程度に成長し、主に犬の腸内に寄生します。感染の一般的な兆候としては、糞便中に回虫が混じっていることが挙げられ、これを定期的にチェックすることで、感染を早期に発見することが可能です。
回虫の感染は多くの場合、無症状であることが一般的ですが、特に子犬が大量に寄生された場合には、軟便や下痢、嘔吐などの消化器系の症状を引き起こす可能性があります。さらに、栄養失調や体重の低下、貧血が進行し、重症化すると命を落とす危険もあります。成犬になると、回虫に対する抵抗性が高まるため、回虫が成虫に成長することは難しくなります。通常、犬の体内で回虫が成虫まで成長するのは子犬期の6ヶ月以内とされています。
なお、感染の経路は口からの直接感染だけではなく、妊娠中の母犬から胎盤を通じて子犬へと感染する母子感染の可能性もあります。
<鉤虫(こうちゅう)>
鉤虫は犬の小腸に寄生し、その細長い形状が特徴の寄生虫です。感染経路には、経口感染、母子感染、そして経皮感染があります。この寄生虫は、腸の壁に噛み付き血を吸うことで栄養を得るため、寄生された犬は貧血、下痢、血便などの症状を示すことがあります。
犬鉤虫症の症状には、生後わずか2週間の子犬に見られる甚急性型(じんきゅうせいがた)、幼齢犬に見られる急性型、そして成犬に見られる慢性型の3つのタイプが存在します。
特に甚急性型や急性型では、貧血や体重減少のほか、粘り気のある血便、食欲不振、腹痛などの症状が引き起こされます。子犬では特に犬鉤虫症が重症化しやすく、場合によっては生命を脅かす事態にも至るため、高い注意が必要です。
<糞線虫(ふんせんちゅう)>
糞線虫は、その成虫の体長が約2mmと非常に小さく、肉眼ではほぼ確認することが難しい寄生虫です。主に経口感染するほか、皮膚や粘膜を通じての感染もあり得るため、特に注意が必要です。
糞線虫は多くの犬が共に生活している環境で見つかることが多く、ブリーダーやペットショップで購入した犬の場合も注意が必要です。
寄生している場合、無症状なこともありますが、軟便や下痢といった症状が現れることもあります。特に授乳期の子犬では、母乳を通じての経乳感染が起こり得ることから、免疫力が未発達の子犬は重症化しやすく、非常に注意が必要です。
生後間もない子犬が感染した場合、急性出血性腸炎(腸に炎症が起きること)を引き起こすし、命に関わる場合もあります。
なお、糞線虫の大量感染によって未治療のまま放置されると、糞線虫はただ腸内に留まらず肺組織を貫通して移行し、寄生虫性肺炎を生じ呼吸器症状を引き起こす場合があります。
<鞭虫(べんちゅう)>
鞭虫は6cm程度の長さで、都市部よりも農村部に多く見られる寄生虫です。屋外で過ごすことが多い犬は、鞭虫に寄生されるリスクが高いと言えます。
犬の体内に侵入した鞭虫は、初期段階では盲腸に寄生しますが、その数が増加すると結腸(大腸)にも広がり、下痢を引き起こすことがあります。鞭虫が大量に寄生すると、下痢、血便、排便の際のしぶりなどが生じやすくなり、この状態は慢性化や再発の可能性もありますので、早めに動物病院を受診しましょう。
重症化すると最悪の場合、命を落とすこともあり得るため特に注意が必要です。
鞭虫に寄生されても無症状、あるいは軽度の症状であれば駆虫薬のみで治療が可能なこともあります。しかし、下痢などの消化器系の症状が伴う場合には、駆虫薬に加えて、それらの症状を緩和するための対症療法が必要になることがあります。
<原虫>
・ジアルジア
ジアルジアは非常に小さな原虫で犬の腸内に寄生します。この原虫は、感染した犬の糞やそれに汚染された水などを摂取することで感染します。
感染症の症状は無症状の場合もありますが、水のような下痢を引き起こし、それに伴い元気消失や食欲不振、体重が減少することがあります。
無症状で感染しているケースが多いため、当院では子犬の初診時には鏡検とは別に検査キットを使って検出しています。また院内検査で下痢の原因が特定できない場合、便を用いたRealPCR検査による病原体の検出をご案内しています(外注検査)。
・トリコモナス
トリコモナスも小さな原虫の一種で、犬の腸内に寄生します。トリコモナスに感染した犬の糞やそれに汚染された水などを摂取することで感染します。
無症状の場合もありますが、長期間下痢を引き起こす場合があります。他にも、排便回数の増加、粘液や血が混じった下痢も見られます。
・コクシジウム
コクシジウムは特に子犬に感染しやすい原虫で、犬の小腸に寄生します。汚染された土壌、糞便、水から感染することが最も一般的です。
感染すると、泥状または水のような下痢を引き起こし、重症の場合には血便が出ることもあります。これにより衰弱し、最悪の場合には命を落とすこともあります。その他にも脱水、食欲不振、元気消失などの症状も見られます。
診断方法
消化管内寄生虫の診断には、主に糞便検査(検便)が行われます。検便は少量の便を顕微鏡で観察して寄生虫の卵や虫体を探し出します。
しかし、一度の検査では必ずしも寄生虫を検出できるとは限らないため、特に確実な診断を求める場合は、複数回にわたって検便を行うことが推奨されます。
特に子犬は寄生虫感染のリスクが高いため、複数回の検便が特に重要とされています。
新しく愛犬を迎えた際には、最初の診察時に糞便検査を行い、寄生虫感染の有無をチェックすることが大切です。
治療方法
消化管内寄生虫の治療は、駆虫薬の使用が一般的です。
これらの駆虫薬には様々な形状があり、スポットオンタイプ、スプレータイプ、錠剤タイプ、おやつタイプなど、多岐にわたります。
寄生虫の種類や犬の年齢、体重、健康状態に応じて、使用する薬剤は異なるため、治療の際は獣医師の指示に従って薬を使用しましょう。
予防法やご家庭での注意点
新しく愛犬をお家に迎えたら下痢などの症状がないかよく観察し、先住犬がいる場合は、しばらく隔離するようにしましょう。また全身の健康チェックも兼ねて、一度動物病院を受診し、検便をしておくと安心です。
消化管内寄生虫の予防には、感染源となり得る他の動物の糞便との接触を避けることが何よりも重要です。お散歩の際には、他の犬や野生動物の便を避け、愛犬がそれらに近づかないように注意しましょう。
回虫などの体内に寄生する内部寄生虫は、ある程度数が増えて症状が出てからでないとなかなか気がつかないため、気づいたときには症状が重症化している可能性もあります。
そのため、症状が現れる前に定期的に予防薬を投与し、寄生虫感染を予防することが非常に重要です。
まとめ
愛犬が寄生虫に感染した可能性がある場合、早めに動物病院に連れていき適切な治療を受けさせることが大切です。感染を放置すると犬の免疫力が低下し、他の病気にかかりやすくなる可能性があり、治療が長引いてしまうことがあります。
愛犬の健康を守るためには予防対策と早期の治療が鍵となります。
愛犬が健康で幸せな生活を送れるように、定期的な健康チェックと予防措置を行いましょう。
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症例
犬のアレルギー性皮膚炎|環境の管理や食事の見直しが重要
花粉、ハウスダスト、動物の毛など、人間にアレルギーを引き起こすさまざまな物質がありますが、実際には動物もこれらの物質に対してアレルギー反応を示すことがあります。
特に犬のアレルギー反応は主に皮膚に発生し「アレルギー性皮膚炎」と呼ばれます。
今回は犬のアレルギー性皮膚炎について、症状や治療方法、予防方法などを詳しく解説します。
原因
アレルギー性皮膚炎は、犬がアレルギー反応を起こす物質(アレルゲン)にさらされたときに、免疫が過剰に働くことで発生します。
なお、アレルゲンによって病名が以下のように分かれています。
・アトピー性皮膚炎:花粉やハウスダストといった環境中の物質を吸入することや皮膚から取り込むことで発症する。
・ノミアレルギー性皮膚炎:吸血時に体内に入るノミの唾液(タンパク質)が原因となり発症する。
・食物アレルギー:食物の中の成分が原因でアレルギー反応が引き起こされる。
アレルギー体質の発生には、遺伝や生後間もない時期の環境などが関係しているとされていますが、その詳細なメカニズムについてはまだ明確には解明されていません。
特に、以下の犬種で発症が多いといわれています。
・フレンチ・ブルドック
・柴犬
・トイプードル
・シー・ズー
・ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア
・ワイヤー・フォックス・テリア
症状
主な症状には、皮膚のかゆみ、赤みや腫れ、湿疹、耳のかゆみや発赤、くしゃみや鼻水などが見られ、外耳炎や結膜炎などを引き起こすことがあります。
愛犬がしきりに皮膚を舐めたり掻きむしっていたり、耳を掻いたり頭を振ったりする行動が見られる場合、皮膚や耳に強いかゆみを感じているかもしれません。
また、皮膚の状態が悪化するとそのバリア機能が弱まり、他の皮膚疾患(膿皮症やマラセチア性皮膚炎など)の発生リスクが高まるので、注意が必要です。
診断方法
診断では、身体検査やアレルギー検査が行われます。
アレルギー検査には主に以下の方法があります。
・血液検査:犬の血液中に特定のアレルゲンに対する抗体が存在するかを調べます。これには、特定のアレルゲンに対するIgE抗体を測定する検査が含まれます。加えて、リンパ球反応検査も実施します。
・除去食試験、食物負荷試験:食物アレルギーの特定に用いられる方法で、アレルゲンを含まない食事を与えて症状が改善するかどうかを観察します。
治療方法
かゆみのコントロールや炎症を鎮静させるためには、抗アレルギー薬やステロイドを用いた薬物療法を行います。
また薬物療法と並行して、保湿や腸活、皮膚の常在菌の管理を行い、皮膚の健康状態を改善させることも重要です。
さらに、アレルゲンを特定・除去することで、さらなるアレルゲンへの曝露を防ぐことも重要な治療の一環です。
このように当院では、薬物療法、スキンケア、アレルゲンの除外を治療の三本柱としています。
ご家庭での注意点
ご家庭の注意点としては、環境の管理や食事の見直しが重要です。アレルゲンがたまらないよう、こまめに部屋を掃除したり、空気清浄機を使用したり、ノミの駆虫を行うことも効果的です。
保湿ケアや腸の健康維持も大切なポイントです。
当院では、Dermoscentのアニマルスキンケア用品や、ファイナルアンサーのサプリメント、スキンケアスプレーなどを導入し、動物の肌の状態に合わせた適切なケアをご提案しています。
■ファイナルアンサー
ファイナルアンサーについてはこちらのお知らせをご覧ください
Dermoscentの製品については公式HPをご覧くださいまとめ
犬のアレルギー性皮膚炎はさまざまな要因によって引き起こされる疾患であり、適切な治療が必要です。
当院では、アレルギー性皮膚炎に悩む愛犬の健康を支えるために総合的なアプローチを採用しています。薬物療法、アレルゲンの除外、そしてスキンケアを組み合わせることで、皮膚の健康を保護し、愛犬が快適に生活できるようにサポートしています。
また、治療には日々の食事やスキンケアなどご家族の協力が不可欠なため、生活指導も行っています。皮膚の病気でお困りのことがあれば、当院までお気軽にご相談ください。
■皮膚に関する病気はこちらでも解説しています
・犬や猫の皮膚のできもの(体表腫瘤)について千葉県市原市の動物病院なら「姉ヶ崎どうぶつ病院」
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症例
犬の慢性腎臓病について|静かに進行する病気
腎臓病は犬で発生の多い疾患です。特に、ゆっくりと時間をかけて進行していくものを「慢性腎臓病」と呼び、中〜高年齢の動物で多く発生します。
腎臓は体液中の老廃物を除去する働きを担っており、腎機能の維持は愛犬の健康維持のために非常に重要です。
今回は犬の慢性腎臓病について、症状や治療方法、予防方法などを詳しく解説します。
原因
慢性腎臓病に至る直接の原因は多岐にわたります。
・加齢による腎機能の自然な低下
・遺伝的要因
・細菌感染やウイルス感染による腎炎
・中毒物質の誤飲、腎臓の血流の低下
・尿路閉塞 等
特に、コッカー・スパニエル、サモエド、ドーベルマン、シー・ズー、ヨーキーなどで発症しやすいことが知られていますが、全ての犬種で慢性腎臓病にかかる可能性があります。
症状
慢性腎臓病は、進行状況によって症状が変化します。
初期の慢性腎臓病では、目立った症状が出ないことがほとんどです。
しかし病態が進行すると、水をたくさん飲み、尿をたくさん排泄する多飲多尿や元気ではあるものの痩せていくなどの症状が出始めます。
さらに症状が進行すると、通常は尿として体外に排出されるべき老廃物が血中に蓄積し尿毒症が起こり、食欲低下、元気消失、嘔吐、下痢、便秘などが見られます。
診断方法
慢性腎臓病の診断には、血液検査や尿検査、血圧検査、腹部超音波検査などの画像診断が行われます。特に腎数値や尿比重、尿中の蛋白質の検査を行うことで、腎臓の機能低下や損傷の程度を評価することが可能です。
腎機能が大きく損なわれると、リンやカリウムなどのミネラルのバランスが崩れます。リンやカリウムが体内に蓄積すると、腎臓やその他の臓器に悪影響が出るため、これらの値も調べておくことが重要です。
最近では、FGF23(線維芽細胞成長因子23)の検査も重要な要素となっています。FGF23は血液中のリンの濃度上昇と関連することがわかっているため、食事療法の開始時期の目安となります。
治療方法
慢性腎臓病を完治させる方法は、残念ながらありません。
そのため、慢性腎臓病の治療では食事療法や点滴などを行い、症状の緩和と腎臓の負担軽減が目的となります。吐き気や食欲不振などの症状が強い場合は、吐き気止めなどの薬物療法を行うこともあります。
また当院では、高カリウム血症治療薬であるロケルマを使用しています。カリウム値が高い場合、従来は点滴を行うしかありませんでしたが、ロケルマを使用することで効果的に管理できるようになりました。
加えて、腎機能が弱まっている中で老廃物の排出を促すには、可能な限りたくさん排尿させる必要があります。そのため、積極的な水分補給が重要です。
予防法やご家庭での注意点
慢性腎臓病の予防には、適切な食事管理やストレスの少ない環境づくりを心がけ、腎臓への負担を最小限にすることが重要です。また水は常に清潔なものを用意し、腎臓に悪影響を与えるような物質の誤飲には注意しましょう。
初期の慢性腎臓病では症状がほとんど出ないため、定期的に健康診断を受け、腎臓の健康状態を確認することも重要です。
まとめ
犬の慢性腎臓病は進行性の疾患であり、早期の発見と適切な管理が重要です。
当院では高カリウム結晶治療薬やFGF23の検査など最新の治療法を取り入れ、愛犬の健康をサポートしていますので、慢性腎臓病でお困りのことがあれば、当院までご相談ください。
■当院の泌尿器科に関連する病気はこちらで解説しています。
・犬の膀胱腫瘍
・猫の尿道閉塞について|尿が出なくなったら非常に危険千葉県市原市の動物病院なら「姉ヶ崎どうぶつ病院」
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症例
猫の尿道閉塞について|尿が出なくなったら非常に危険
尿道閉塞とは、固形物(主に尿道栓子、膀胱の炎症によって産生される膿や粘液や結晶のこと)が尿道に詰まることで尿が正常に出なくなってしまう病気で、下部尿路疾患(膀胱炎)に関連して発症することが多く、オス猫ではよくみられます。
結石が尿とともに自然に外へと流れ出てくれればよいのですが、完全に詰まってしまうと急性腎障害や尿毒症といった病気に発展し、一刻を争う事態となってしまいます。
今回は猫の尿道閉塞について、当院での治療方針を中心にまとめました。
原因
尿の元は腎臓で作られて、尿管、膀胱、尿道を経て排尿されます。尿道閉塞は、その中の尿道という尿を体外に排泄する管が詰まってしまうことで引き起こされます。
一般的には尿道栓子が詰まることが多く、特にオスはメスよりも尿道が細いため、発生しやすいといわれています。
また、稀ではありますが、それ以外にも膀胱に腫瘍があると、その一部が尿道に移動して詰まることもあります。
症状
尿道閉塞になるとほとんど尿が出なくなるため、非常に危険です。そのため、
・頻繁にトイレに行くものの尿が出ない
・尿に血が混じる
・尿がぽたぽたとしか出ない
といった尿に関する症状が現れます。
また、尿を出したいのに出せないため、苦しさや痛みからウロウロとして落ち着かない、元気・食欲がない、といった様子もみられます。
こうした状態が続くと、急性腎障害や尿毒症にまで発展してしまいます。
急速に全身の状態が悪化することで、最終的に発作や不整脈を起こして命を落としてしまう危険性もあります。
診断方法
問診、身体検査、血液検査やエコー、レントゲン、尿検査などを組み合わせて診断します。
治療方法
治療には内科療法と外科療法がありますが、尿道閉塞の猫は生死をさまよっているケースも多いため、まずは緊急の処置として尿道にカテーテルを挿入し、排尿を促す必要があります。
その後、内科療法を選択する場合は、状態に応じて入院下での治療を行い、状態が安定したら自宅で再発を予防する治療(尿路結石用の療法食を与えるなど)、といった方法で管理します。
ただし、こうした治療をしても尿道閉塞を何度も繰り返す場合は、手術が必要になる場合が多いです。
当院では2〜3回、尿道閉塞を繰り返すようであれば手術による治療をお勧めしています。その術式は会陰尿道造瘻術と呼ばれるもので、この手術を行うことで尿道閉塞が再発しづらくなりますが、尿道が陰茎を通らずに皮膚へと開口するため、術後は細菌性膀胱炎を始めとする合併症が起こりやすくなることが知られており、およそ2割で発症し、再発も多いといわれています。
ご家庭での注意点と予防法
具体的な対策としては、新鮮な水を常に飲める状態にしておく、食事中の水分を多くする、トイレは猫の頭数プラス1台用意する、トイレを清潔に保つ、トイレの形状や砂の材質などをお気に入りのものに変えてみる、といったことが挙げられます。
まとめ
尿道閉塞は特にオス猫に多くみられ、放置すると腎障害や尿毒症に進行する恐れがあります。
今回ご紹介したような様子がみられたら、早めに動物病院を受診しましょう。
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