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犬の膀胱腫瘍

症例

こんにちは、獣医師の會田です!

 

今回は犬の膀胱腫瘍について解説していきたいと思います。

 

犬の膀胱腫瘍は治療計画を練る際、非常に悩むポイントの多い腫瘍です。
その理由として…

 

・膀胱腫瘍は悪性が多い
・発見時、進行した状態で見つかることが多い
・腫瘍のできた位置や大きさ進行具合で排尿障害(=尿をしたくても出しにくい、出せない)が起きた場合、QOL(生活の質)が非常に低下する
・局所浸潤が強く、手術となると侵襲的になるケースがある
・遠隔転移がよくみられ、転移の場所によってはさらにQOLが下がる
・治療の選択肢で内科治療を行うことが多いが、高齢犬は腎機能が低下している個体が多いため、治療の継続が難しくなるケースがある

 

しかしそんな治療の難しい膀胱腫瘍に新しい薬の選択肢ができました。
今回はその治療薬と共に、膀胱腫瘍の診断と治療について詳しく紹介していきたいと思います。

 

当院では犬の膀胱腫瘍に関して、飼い主様と相談しながら診断・治療を行っています。
気になる症状がありましたらお気軽にお問い合わせください。

 

※膀胱腫瘍は猫での発生が稀なため、今回は犬の膀胱腫瘍に焦点を当ててお話しします。

 

概要

犬の膀胱腫瘍は、犬の腫瘍全体の0.5〜1%、悪性腫瘍の2%を占めます。
一言で膀胱腫瘍といえども組織学的分類はさまざまあり、そのほとんどが膀胱・尿道の尿路上皮癌/移行上皮癌(74%)と言われています。この腫瘍は前述の通り非常に悪性度が高く、挙動が悪い腫瘍で有名です。

 

原因や傾向

膀胱・尿道の尿路上皮癌/移行上皮癌は高齢犬での発生率が高く、オスよりもメスに多くみられます。また、スコティッシュテリアやシェットランド・シープドッグ、ビーグルなど特定の犬種に多いことから、遺伝的要因が関与していると考えられています。その他、除草剤への暴露肥満などの関連性が示唆されています。

 

症状

頻尿や血尿、排尿困難、下腹部痛など、膀胱炎と同じような症状がみられます。また、尿が完全に出なくなってしまうと(尿道閉塞、尿管閉塞)尿毒症を引き起こすため、全身状態の低下が認められます。
膀胱移行上皮癌は骨への転移をすることが知られており、その場合は動物の跛行(はこう:正常な歩行ができない状態)の原因になります。腰椎に転移した場合は、神経障害も併発することが知られています。

 

診断方法

いくつかの検査を組み合わせて総合的に診断しますが、確定診断には病理組織検査が必要です。

 

・画像検査(超音波検査、レントゲン検査、CT検査)
膀胱腫瘍は超音波検査を実施している時に発見することがほとんどです。
腫瘤性病変の確認、位置の特定、膀胱筋層への浸潤程度などを確認します。

 

単純レントゲン検査では膀胱粘膜の病変を描出することは困難ですが、周囲の組織への影響(リンパ節の腫脹、骨転移等)を確認することが可能です。ただし病変が小さい場合は、進行に伴って異常が発見されることもあります。

 

CT検査は麻酔下で行う検査です。腫瘍の周囲組織への浸潤程度や播種、遠隔転移を評価します。また造影剤を使って腫瘍と尿管の位置関係を把握します。

 

・細胞診
・組織検査
細胞診をする上で一般的な検査は針生検ですが、膀胱腫瘍に関しては尿道カテーテルを介して腫瘍細胞や組織の一部を採材する方法が選択されます。
採材した細胞や組織は染色や固定を経て、診断医の元へ送られます。

 

・遺伝子検査(BRAF遺伝子変異検査)
犬の移行上皮癌や前立腺癌では、BRAFという遺伝子の変異が認められることが多いとされています(70〜90%)。変異が確認された場合もされなかった場合も確定診断には至りませんが、上記の検査を複数組み合わせて行うことによって診断精度が上がるため、当院でもご提案しています。

 

治療方法

腫瘍治療の三本柱は外科療法、内科療法、放射線療法と言われていますが、膀胱移行上皮癌に関しては術後の合併症や管理の問題から内科療法が選択されることが多いです。
今回は当院で行なっている内科療法をご紹介します。

 

使用するお薬

・NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
・抗がん剤
・分子標的薬

 

今まではNSAIDsや抗がん剤を使った治療がメインでしたが、効果のあるとされる薬は腎臓への負担が大きく、すでに腎機能不全のある動物では選択しにくい治療薬でした。
しかし冒頭でも述べた分子標的薬は副作用が少なく、生存期間を延長させられる可能性のある治療薬として、2022年に論文で発表された治療法です。

 

それがHER2阻害薬「ラバチニブ」です。

 

従来使われていたNSAIDsと併用により、腫瘍を完全に消失させることは難しいものの、
腫瘍のサイズを縮小させたり、維持する効果が確認されたという報告です。
高い効果、副作用の少なさ、治療の侵襲度の低さから、是非おすすめしたい治療方法ではありますが、デメリットがあるとしたら費用です。

 

体重によって使用量は変わってくるので、治療方針は担当の獣医師とよく相談し、飼い主様と動物にとって一番良い治療を選択していければと思っております。

 

膀胱腫瘍の予防法や飼い主様が気を付けるべき点

腫瘍は予防が難しいものの、膀胱の移行上皮癌の危険因子に「肥満」が含まれているため、食事管理や適度な運動で適正体重の維持を目指しましょう。

 

また、膀胱腫瘍は発見が遅れれば遅れるほど予後も悪くなります。 高齢犬で膀胱炎のような症状がみられた場合には、なるべく早めの受診をおすすめいたします。

 

まとめ

犬の膀胱腫瘍自体の発生率は低いものの、その多くが移行上皮癌であるため注意が必要です。膀胱腫瘍は肉眼で見ることはできませんが、血尿や頻尿など飼い主様が気付きやすい症状が現れるため、異常がみられた場合はなるべく早めの受診をお願いします
また当院では、治療効果が認められている分子標的薬を使った治療も行っております。
ご質問やご相談は、お気軽にお問い合わせください。

 

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<参考>
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1090023315000350?via%3Dihub
https://www.nature.com/articles/s41598-021-04229-0

 

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