
コラム
犬と猫の白内障と核硬化症の違いについて|どちらも目が白く濁る病気
白内障は、水晶体のタンパク質が遺伝的な要因や後天的な原因(外傷性、代謝性、加齢性、続発性)で元に戻せないほど変性し、目が白く濁る疾患です。
核硬化症は、水晶体の中心にある水晶体核が加齢に伴って硬くなり、青みを帯びて白く見える状態です。核硬化症は白内障と見た目が似ていますが、これは加齢による変化であり病気ではありません。
今回は、犬と猫の白内障と核硬化症の違いについて詳しく解説します。

白内障について
正常な水晶体は透明で、目に入った光を屈折させてピントを調節し、網膜上に像を結ぶカメラのレンズのような機能を持っています。
水晶体のタンパク質が加齢、遺伝、糖尿病などの基礎疾患による影響で不可逆的に変性し、白濁化します。
白内障の初期症状としては、以下が挙げられます。
・急に段差や階段を踏み外すようになる
・光に敏感になる
・前足で目を擦るような行動が増える
・暗い場所での行動に躊躇するようになる
白内障は文字通り目が白く濁りますが、初期段階では水晶体の一部のみが白濁化するため、視覚への影響はほとんどなく、痛みや不快感もありません。
しかし、進行すると「成熟白内障」や「過熱白内障」の段階に移行します。
・成熟白内障:この段階では、水晶体のほぼ全体が白く濁り、正常に見ることが困難になります。
・過熟白内障:さらに進行した段階で、水晶体が融解し、脱臼することもあります。この状態では、水晶体タンパク質が溶け出してぶどう膜炎を引き起こすことがあり、痛みを伴うこともあります。
白内障の進行に伴い、いくつかの続発性疾患のリスクが高まります。
特に注意すべきなのは、緑内障、ぶどう膜炎、水晶体脱臼です。緑内障は眼圧の上昇により視神経が障害される深刻な疾患で、白内障の進行や手術後に発症するリスクがあります。ぶどう膜炎は先述の通り過熟白内障で起こりやすく、水晶体脱臼も白内障の進行に伴って発生する可能性があります。これらの続発性疾患は早期発見と適切な治療が重要です。
白内障の診断には、まず身体検査や対光反射、威嚇瞬目反応、綿球落下試験などの神経学的検査を行い、視覚の状態を確認します。その後、散瞳剤を使用して瞳孔を広げ、スリットランプを用いて水晶体の白濁の度合いを評価します。
治療方法としては、以下のものがあります。
・薬物療法:ピレノキシン点眼薬を使用します。これは初期段階での進行を遅らせるために有効です。
・外科治療:角膜を切開して超音波乳化吸引装置を用いて白く濁った水晶体を吸引し、水晶体嚢内に人工の犬用眼内レンズを挿入します。
基本的に白濁化した水晶体を元の状態に戻すことはできないため、白内障が成熟白内障や過熱白内障まで進行し視力を失った場合は、外科手術が唯一の治療法となります。
※場合によっては外科手術が非適応になるケースもあります
核硬化症について
核硬化症とは、水晶体の中心にある水晶体核が加齢に伴って変性し硬くなり、青みを帯びて白く見える状態です。名前に「症」という漢字が含まれているため、病気と思われがちですが、これは加齢による自然な変化であり、厳密には病気ではありません。
白内障とは異なり、核硬化症では水晶体の透過性は低下しないため、視力を失うことはありません。そのため、主な症状は飼い主様が、目が白いことに気が付く程度です。
核硬化症の診断は、見た目だけでは白内障と核硬化症の区別が難しいため、スリットランプ検査が必要です。スリットランプ検査とは、スリット光という細い光で眼球の各部を照らし、それを顕微鏡で拡大して観察する検査です。
核硬化症で白くなった水晶体核を元に戻す治療法はありませんが、そもそも加齢性の変化であるため治療は必要ありません。
白内障と核硬化症の違い
白内障と核硬化症は、どちらも目が白く見える症状を引き起こしますが、その原因と影響は大きく異なります。
白内障 | 核硬化症 | |
原因 | ・水晶体タンパク質の不可逆的な変性と混濁により発生 | ・加齢に伴う水晶体核の変性により発生 |
症状 | ・進行すると水晶体の大部分が白濁し、視覚を失うことがある
・水晶体タンパク質の溶解によりぶどう膜炎を引き起こすことがある |
・加齢に伴って水晶体核が白濁するが、視覚を失うことはない
・ぶどう膜炎などの合併症は起こらない |
診断方法 | ・身体検査と神経学的検査で視覚確認
・スリットランプ検査で水晶体の光透過性や境界を確認 |
|
治療方法 | ・点眼薬や外科治療を行う | ・治療はせず経過観察が主な対応 |
予後 | ・適切な治療を受ければ良好
・放置すると視力喪失や重度の組織変性を引き起こし、最終的には眼球癆に至る可能性がある |
・非常に良好で、特別な治療は不要、経過観察で問題なし |
予防と早期発見の重要性
白内障と核硬化症を飼い主様が判断することは難しいため、動物病院での眼科検診を含む全身的な健康診断を定期的に受けることが何よりも大切です。
白内障は初期に発見し治療を開始できれば、点眼薬や抗酸化作用のあるサプリメントの使用により、進行を遅らせる可能性があります。
※ただし、効果には個体差があり、全ての症例で効果が見られるわけではありません。
普段から愛犬や愛猫の目の状態を注意深く観察し、目が少しでも白く濁っていると感じたり、目を引っ掻いたり壁や床に擦り付ける様子が見られれば、すぐに獣医師に相談してください。
まとめ
白内障は加齢や遺伝的な要因、糖尿病などによって水晶体が白く濁る病気です。
一方、核硬化症は水晶体核が加齢に伴い変性する自然な加齢性変化であり、厳密には病気ではありません。これが最も重要なポイントです。
白内障は放置すると失明の恐れがあるため、動物病院で適切な治療を早期に受けることが大切です。
眼の病気は軽視されがちですが、眼は生活の質に大きく影響する非常に大切な器官なので、普段から定期的に健康診断を受け、愛犬や愛猫の眼の健康を維持しましょう。
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