コラム
犬と猫のてんかんについて|発作が起きたときに慌てないために
「てんかん」と聞くと、突然発作が起きて意識を失う病気というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、実は犬や猫にもよく見られる神経疾患です。
てんかん発作は、脳の神経細胞の異常な興奮によって生じる、一時的なけいれんや意識障害、異常行動を指します。
今回は、犬や猫のてんかんの原因や症状、診断方法、治療方法について詳しく解説します。
てんかんの種類
てんかんは大きく分けて、「特発性てんかん」と「構造的てんかん(症候性てんかん)」の2種類があります。
また、低酸素や低カルシウム血症などが原因で発作が起こる「反応性発作」もありますが、これは厳密にはてんかん発作には含まれません。
<特発性てんかん>
発作の原因がはっきりしていないてんかんです。おそらく、遺伝子の異常が関与していると考えられています。
特発性てんかんは犬や猫に比較的よく見られるタイプで、犬では約100頭に1頭、猫では約100〜200頭に1頭がこのてんかんを持っていると考えられています。
<構造的てんかん (症候性てんかん)>
脳腫瘍や脳炎、脳外傷など、脳の病気や異常が原因で発作が起こるてんかんです。
原因
てんかんの原因はさまざまで、複数の要因が重なって発作が起こることもあります。
<特発性てんかん>
遺伝子以外のてんかんの原因がすべて否定されているため、遺伝的な要因が関与していると考えられています。
日本ではあまり見られない犬種ですが、ラゴット・ロマニョーロやローデシアン・リッジバックといった犬種で、てんかん発作に関連する遺伝子異常が報告されています。
<構造的てんかん>
大脳皮質の器質的な異常(脳腫瘍、脳炎、脳外傷、水頭症など)が原因となり、発作が起こります。
また、代謝異常による脳のダメージや、金属や薬物などの中毒が原因で発作が引き起こされることもあります。
症状
てんかんは、発作のタイプによって部分発作と全般発作に分類されます。これは脳の細胞が過剰に興奮することで引き起こされ、どの部分が影響を受けるかによって異なります。
部分発作は、脳の一部で電気的興奮が限局して起こるものです。
例えば、運動に関わる脳の部位に発作の焦点がある場合、顔面のけいれんや四肢がガクガクと震えるような症状が見られます。
視覚に関わる脳の部位に発作の焦点があると、フライバイト(ハエ追い行動)と呼ばれる、空中を見つめてハエなどの虫を追いかけるような行動や、幻覚を見ているかのような仕草が見られます。
一方、全般発作は、脳の一部で始まった電気的興奮が脳全体に広がるものです。
この場合、意識を失ったり、よだれが増えたり、失禁することが多く、全身がピンと突っ張ったり、ガタガタと震える強直間代性発作が見られることがあります。
発作の前兆として、突然落ち着きがなくなったり、不安そうな様子になったりすることがあります。また、発作後には、攻撃的な行動を取ったり、徘徊したり、意識がはっきりしない、運動がぎこちないといった発作後徴候が見られることがあります。
診断方法
てんかんの診断は、まずこれまでの発作の経過や発作時の様子を詳しく伺うことから始まります。もし、ご自宅で発作の様子を録画した動画があれば、診断に大変役立ちます。
てんかん発作に似た症状が、心臓病による低酸素や失神、中毒症状などでも現れることがあるため、まずは身体検査や血液検査、レントゲン検査、心電図検査などで全身の健康状態を確認します。その後、脳や脊髄など中枢神経系の状態を調べるために神経学的検査を行います。
さらに、脳腫瘍や脳炎などが原因で発作が起きていないか確認するため、CT検査やMRI検査、脳脊髄液検査(脳脊髄液を採取して検査する方法)を行い、脳の状態や脳脊髄液の性状を確認します(外部の専門機関をご紹介します)。
これらすべての検査で異常が見つからなくても発作が続く場合は、特発性てんかんと診断されます。
逆に、MRIやCT検査で脳に炎症や腫瘍が認められた場合は、それらが原因のてんかんと診断されます。
特発性てんかんの診断は通常、MRI検査や脳脊髄液検査で他の病気を除外して行いますが、脳波検査でてんかんに特有の波形が確認できれば、さらに信頼性の高い診断を行うことが可能です。
治療方法
てんかんの治療の基本は、抗てんかん薬(フェノバルビタール、臭化カリウム、レベチラセタム、ゾニサミドなど)という、てんかんの発作頻度を抑える薬を服用します。
また、補助的な治療として、食事療法やサプリメントの使用が稀に行われることもあります。例えば、医療用大麻由来のカンナビジオール(CBD)が一部で使用されるケースもあります。
最近では、てんかん外科と呼ばれる脳外科手術によって、難治性のてんかんを治療する試みも始まっており、国内でも試験的に行われています。
通常、てんかん発作は安静にしていれば5分程度で治まりますが、5分以上続く場合はてんかん重積と呼ばれ、緊急の治療が必要です。
この場合、ジアゼパムやミダゾラムなどの強力な抗けいれん薬を使用して、速やかに発作を抑えます。
予後
一般的に、抗てんかん薬を使用した場合、発作がうまくコントロールできる割合は60〜70%ほどと言われています。しかし、残りの30〜40%は難治性てんかんと呼ばれ、薬でのコントロールが難しいケースです。このような場合は、食事療法やサプリメント治療、てんかん外科などを検討します。
てんかん発作は、犬や猫の生活の質(QOL)に大きな影響を与えるため、早期に治療を開始し、発作をできる限りコントロールすることが非常に重要です。
てんかんは完治する病気ではないため、基本的には一生抗てんかん薬を服用しながら病気と向き合う必要があります。
発作の頻度に応じて薬の量を調整することはありますが、長期的な管理が必要であることを理解していただければと思います。
ご家庭での注意点
てんかん発作は基本的に自然に治まることが多いため、発作が始まったらなるべく刺激しないことが大切です。発作が起きたら、できるだけ周囲に危険なものがない安全な場所で発作が治まるのを静かに見守りましょう。
このとき、発作の様子の録画や時間を測っておくと、診断や治療に役立ちます。また、発作が起きた日時、発作の様子、持続時間、その後の状態などを記録しておくことも重要です。
処方された薬は、必ず獣医師の指示通りに服用し、定期的に動物病院で検査を受けるようにしてください。運動や食事については、特別な指示がなければ通常通りで問題ありません。
さらに、発作時に物にぶつかって怪我をしないよう、部屋を整理整頓しておくことや、ストレスをできるだけ減らすよう心がけることも大切です。
まとめ
てんかんはQOLに大きく影響を与えるため、早期診断と早期治療が非常に重要です。もし、てんかん発作を疑うような症状が見られた場合は、まずは獣医師に相談してください。
てんかんの治療は基本的に生涯にわたって続くため、信頼できる獣医師と飼い主様が連携しながら治療を進めることが大切です。
また、発作が30分以上続くと脳に後遺症が残る可能性があり、5分以上続く場合は発作が長引くリスクが高まります。5分以上発作が続く場合は、様子を見ずにすぐにかかりつけの動物病院や夜間救急病院を受診してください。
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