コラム
-
症例
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)について
副腎皮質機能亢進症、別名クッシング症候群は、副腎皮質ホルモンが過剰に産生される疾患です。
副腎皮質ホルモンは、肝臓での糖新生や筋肉でのたんぱく質代謝を促進し、抗炎症・免疫抑制などの作用があり、生命を維持するために重要な役割を果たしています。
そして、体内で副腎皮質ホルモン、特にコルチゾールのレベルが異常に高くなることによって様々な症状が現れます。
今回は、犬の副腎皮質機能亢進症の原因や症状、診断方法、治療法などについて詳しく解説します。
原因
副腎からのコルチゾール分泌量は、下垂体という脳の一部の器官から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって調節されています。しかし、調節機構が異常をきたすと、過剰なコルチゾール分泌を引き起こします。
副腎皮質機能亢進症の原因は大きく3種類に分けられます。
・脳の下垂体腫瘍によるもの(下垂体性副腎皮質機能亢進症)
下垂体に発生した腫瘍がACTHを過剰に分泌することで、副腎が過剰にコルチゾールを産生します。
・副腎の腫瘍によるもの(副腎性副腎皮質機能亢進症)
副腎自体に発生した腫瘍が直接的にコルチゾールを過剰に産生します。
・ステロイド製剤によるもの(医原性副腎皮質機能亢進症)
コルチゾールと同様の働きをするステロイド薬(プレドニゾロンなど)を長期的に服用することで生じます。
副腎皮質機能亢進症は特に中齢から高齢の犬に多く見られる疾患であり、早期発見と適切な治療が症状の管理と健康維持に非常に重要です。
症状
副腎皮質機能亢進症の主な症状は以下の通りです。
・多飲多尿
・お腹の周りが膨らむ(お腹の筋肉が痩せて脂肪がつきやすくなり、肝臓も肥大するため)
・皮膚や毛が薄くなる
・抜け毛が増える
・皮膚の石灰沈着
・傷が治りにくくなる
・呼吸が荒くなる
特に下垂体性副腎皮質機能亢進症では、下垂体の腫瘍が成長して中枢神経に影響を及ぼすことがあり、その結果、神経症状が現れる場合があります。
一方で、副腎性副腎皮質機能亢進症では、副腎の腫瘍が大きくなり過ぎると周囲の太い動脈を巻き込む危険があり、これが腹腔内出血や突然死のリスクを高めることがあります。
診断方法
診断は、問診・身体検査・血液検査・尿検査・超音波検査などを用いて総合的に行います。
・問診:多飲多尿など、症状の有無を確認します。
・身体検査:お腹の周りの膨らみ具合や皮膚、毛並みの状態などを確認します。
・血液検査:ACTH刺激試験、デキサメタゾン抑制試験などで血中のホルモン濃度を測定します。
・尿検査:尿比重や尿中コルチゾール/クレアチニン比などを測定します。
・超音波検査:副腎の形や大きさを確認します。
下垂体性を疑う場合は脳のCT検査やMRI検査を、副腎性を疑う場合は腫瘍の浸潤具合の評価や手術計画を立てるために追加で腹部のCT検査やMRI検査を行うことがあります。
治療方法
治療は種類によって異なります。
・下垂体性副腎皮質機能亢進症の場合
外科手術、内科治療、放射線治療などが選択肢としてあげられますが、当院では主に内科治療を中心としています。
具体的には、副腎皮質ホルモン合成阻害剤であるトリロスタンを使用し、症状の改善を図ります。
・副腎性副腎皮質機能亢進症の場合
腫瘍の転移が見られない場合は、腫瘍化した副腎を取り除く外科手術が最も効果的な治療方法とされています。下垂体性の治療と同様、トリロスタンを用いて内科治療も同時に行います。
治療方針に関しては、飼い主様とご相談のうえ決定していきます。
予防法とご家庭での注意点
医原性の場合を除き、副腎皮質機能亢進症に有効な予防法は存在しないため、病気の早期発見と早期治療が非常に重要です。
この病気は肝臓、心臓、腎臓など、様々な臓器に影響を及ぼす可能性が高いため、未治療のまま放置すると愛犬の健康状態を損なうことに繋がります。
まとめ
副腎皮質機能亢進症は、副腎からコルチゾールが過剰に産生される疾患です。
この疾患の原因は、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、医原性の3つに分けられ、多飲多尿・お腹の周りの膨らみ・皮膚や毛が薄くなるなど様々な症状が現れます。
有効な予防法はないため、かかりつけの動物病院で定期的に健康診断を受診し、病気の早期発見・早期治療を心がけましょう。
千葉県市原市の動物病院なら「姉ヶ崎どうぶつ病院」
続きを読む > -
症例
犬の消化管内寄生虫について|愛犬を寄生虫から守るポイント
消化管内寄生虫とは、主に胃や小腸などの消化器官に潜む寄生虫のことを指します。特に犬においては、こうした寄生虫による感染がしばしば見られ、下痢をはじめとする様々な健康問題の原因になり得えます。
加えて、寄生虫の種類によっては消化器官だけでなく、他の部位にも寄生するので十分な注意が必要です。
今回は、犬の消化管内寄生虫について、原因や症状から、診断方法、治療方法、予防法などに至るまで詳しく解説します。
原因
犬の消化管内寄生虫感染の主な原因は、外部環境からの感染です。
もっとも多いのは寄生虫に感染した他の犬の糞と接触し、寄生虫の卵や幼虫を体内に取り込んでしまうケースです。特に、ブリーダーやペットショップなど、多くの犬が密集して生活している環境では、その場にいるすべての犬に感染が拡大する可能性があります。
また、母犬から子犬への感染も見られます。これは、寄生虫に感染している母犬が妊娠や出産をした際に、胎盤や母乳を介して子犬に感染します。
胎盤を通じた感染を「胎盤感染」、母乳を通じた感染を「経乳感染」や「乳汁感染」と呼びます。
寄生虫感染は、衛生管理が行き届いた環境でも起こり得ます。初期段階では症状が現れないことが多く、消化管内寄生虫はノミやマダニのように目で確認しにくいため、発見するのは難しいことがあります。さらに、寄生虫は人間にも感染することがあるため、動物への定期的な対策と駆虫が非常に重要です。
症状
消化管内寄生虫の感染による症状は様々ですが、一般的なものには下痢、嘔吐、食欲不振、体重減少、血便、呼吸器に関わる問題、そして毛並みの劣化などが挙げられます。
また、感染が進行すると脱水や栄養失調などの深刻な病態を引き起こすこともあります。
特に、免疫力が弱く体力のない子犬期に消化管内寄生虫に感染すると、重症化のリスクが高いため、注意が必要です。
消化管内部寄生虫のうち代表的なものとしては、回虫(かいちゅう)や鞭虫(べんちゅう)、原虫(げんちゅう)、糞線虫(ふんせんちゅう)、鉤虫(こうちゅう)が挙げられます。
それぞれの寄生虫の特徴や寄生して引き起こす症状について紹介します。
<回虫(かいちゅう)>
消化管内寄生虫の一つである「回虫」は、長さ4〜18cm程度に成長し、主に犬の腸内に寄生します。感染の一般的な兆候としては、糞便中に回虫が混じっていることが挙げられ、これを定期的にチェックすることで、感染を早期に発見することが可能です。
回虫の感染は多くの場合、無症状であることが一般的ですが、特に子犬が大量に寄生された場合には、軟便や下痢、嘔吐などの消化器系の症状を引き起こす可能性があります。さらに、栄養失調や体重の低下、貧血が進行し、重症化すると命を落とす危険もあります。成犬になると、回虫に対する抵抗性が高まるため、回虫が成虫に成長することは難しくなります。通常、犬の体内で回虫が成虫まで成長するのは子犬期の6ヶ月以内とされています。
なお、感染の経路は口からの直接感染だけではなく、妊娠中の母犬から胎盤を通じて子犬へと感染する母子感染の可能性もあります。
<鉤虫(こうちゅう)>
鉤虫は犬の小腸に寄生し、その細長い形状が特徴の寄生虫です。感染経路には、経口感染、母子感染、そして経皮感染があります。この寄生虫は、腸の壁に噛み付き血を吸うことで栄養を得るため、寄生された犬は貧血、下痢、血便などの症状を示すことがあります。
犬鉤虫症の症状には、生後わずか2週間の子犬に見られる甚急性型(じんきゅうせいがた)、幼齢犬に見られる急性型、そして成犬に見られる慢性型の3つのタイプが存在します。
特に甚急性型や急性型では、貧血や体重減少のほか、粘り気のある血便、食欲不振、腹痛などの症状が引き起こされます。子犬では特に犬鉤虫症が重症化しやすく、場合によっては生命を脅かす事態にも至るため、高い注意が必要です。
<糞線虫(ふんせんちゅう)>
糞線虫は、その成虫の体長が約2mmと非常に小さく、肉眼ではほぼ確認することが難しい寄生虫です。主に経口感染するほか、皮膚や粘膜を通じての感染もあり得るため、特に注意が必要です。
糞線虫は多くの犬が共に生活している環境で見つかることが多く、ブリーダーやペットショップで購入した犬の場合も注意が必要です。
寄生している場合、無症状なこともありますが、軟便や下痢といった症状が現れることもあります。特に授乳期の子犬では、母乳を通じての経乳感染が起こり得ることから、免疫力が未発達の子犬は重症化しやすく、非常に注意が必要です。
生後間もない子犬が感染した場合、急性出血性腸炎(腸に炎症が起きること)を引き起こすし、命に関わる場合もあります。
なお、糞線虫の大量感染によって未治療のまま放置されると、糞線虫はただ腸内に留まらず肺組織を貫通して移行し、寄生虫性肺炎を生じ呼吸器症状を引き起こす場合があります。
<鞭虫(べんちゅう)>
鞭虫は6cm程度の長さで、都市部よりも農村部に多く見られる寄生虫です。屋外で過ごすことが多い犬は、鞭虫に寄生されるリスクが高いと言えます。
犬の体内に侵入した鞭虫は、初期段階では盲腸に寄生しますが、その数が増加すると結腸(大腸)にも広がり、下痢を引き起こすことがあります。鞭虫が大量に寄生すると、下痢、血便、排便の際のしぶりなどが生じやすくなり、この状態は慢性化や再発の可能性もありますので、早めに動物病院を受診しましょう。
重症化すると最悪の場合、命を落とすこともあり得るため特に注意が必要です。
鞭虫に寄生されても無症状、あるいは軽度の症状であれば駆虫薬のみで治療が可能なこともあります。しかし、下痢などの消化器系の症状が伴う場合には、駆虫薬に加えて、それらの症状を緩和するための対症療法が必要になることがあります。
<原虫>
・ジアルジア
ジアルジアは非常に小さな原虫で犬の腸内に寄生します。この原虫は、感染した犬の糞やそれに汚染された水などを摂取することで感染します。
感染症の症状は無症状の場合もありますが、水のような下痢を引き起こし、それに伴い元気消失や食欲不振、体重が減少することがあります。
無症状で感染しているケースが多いため、当院では子犬の初診時には鏡検とは別に検査キットを使って検出しています。また院内検査で下痢の原因が特定できない場合、便を用いたRealPCR検査による病原体の検出をご案内しています(外注検査)。
・トリコモナス
トリコモナスも小さな原虫の一種で、犬の腸内に寄生します。トリコモナスに感染した犬の糞やそれに汚染された水などを摂取することで感染します。
無症状の場合もありますが、長期間下痢を引き起こす場合があります。他にも、排便回数の増加、粘液や血が混じった下痢も見られます。
・コクシジウム
コクシジウムは特に子犬に感染しやすい原虫で、犬の小腸に寄生します。汚染された土壌、糞便、水から感染することが最も一般的です。
感染すると、泥状または水のような下痢を引き起こし、重症の場合には血便が出ることもあります。これにより衰弱し、最悪の場合には命を落とすこともあります。その他にも脱水、食欲不振、元気消失などの症状も見られます。
診断方法
消化管内寄生虫の診断には、主に糞便検査(検便)が行われます。検便は少量の便を顕微鏡で観察して寄生虫の卵や虫体を探し出します。
しかし、一度の検査では必ずしも寄生虫を検出できるとは限らないため、特に確実な診断を求める場合は、複数回にわたって検便を行うことが推奨されます。
特に子犬は寄生虫感染のリスクが高いため、複数回の検便が特に重要とされています。
新しく愛犬を迎えた際には、最初の診察時に糞便検査を行い、寄生虫感染の有無をチェックすることが大切です。
治療方法
消化管内寄生虫の治療は、駆虫薬の使用が一般的です。
これらの駆虫薬には様々な形状があり、スポットオンタイプ、スプレータイプ、錠剤タイプ、おやつタイプなど、多岐にわたります。
寄生虫の種類や犬の年齢、体重、健康状態に応じて、使用する薬剤は異なるため、治療の際は獣医師の指示に従って薬を使用しましょう。
予防法やご家庭での注意点
新しく愛犬をお家に迎えたら下痢などの症状がないかよく観察し、先住犬がいる場合は、しばらく隔離するようにしましょう。また全身の健康チェックも兼ねて、一度動物病院を受診し、検便をしておくと安心です。
消化管内寄生虫の予防には、感染源となり得る他の動物の糞便との接触を避けることが何よりも重要です。お散歩の際には、他の犬や野生動物の便を避け、愛犬がそれらに近づかないように注意しましょう。
回虫などの体内に寄生する内部寄生虫は、ある程度数が増えて症状が出てからでないとなかなか気がつかないため、気づいたときには症状が重症化している可能性もあります。
そのため、症状が現れる前に定期的に予防薬を投与し、寄生虫感染を予防することが非常に重要です。
まとめ
愛犬が寄生虫に感染した可能性がある場合、早めに動物病院に連れていき適切な治療を受けさせることが大切です。感染を放置すると犬の免疫力が低下し、他の病気にかかりやすくなる可能性があり、治療が長引いてしまうことがあります。
愛犬の健康を守るためには予防対策と早期の治療が鍵となります。
愛犬が健康で幸せな生活を送れるように、定期的な健康チェックと予防措置を行いましょう。
千葉県市原市の動物病院なら「姉ヶ崎どうぶつ病院」
続きを読む > -
症例
犬のアレルギー性皮膚炎|環境の管理や食事の見直しが重要
花粉、ハウスダスト、動物の毛など、人間にアレルギーを引き起こすさまざまな物質がありますが、実際には動物もこれらの物質に対してアレルギー反応を示すことがあります。
特に犬のアレルギー反応は主に皮膚に発生し「アレルギー性皮膚炎」と呼ばれます。
今回は犬のアレルギー性皮膚炎について、症状や治療方法、予防方法などを詳しく解説します。
原因
アレルギー性皮膚炎は、犬がアレルギー反応を起こす物質(アレルゲン)にさらされたときに、免疫が過剰に働くことで発生します。
なお、アレルゲンによって病名が以下のように分かれています。
・アトピー性皮膚炎:花粉やハウスダストといった環境中の物質を吸入することや皮膚から取り込むことで発症する。
・ノミアレルギー性皮膚炎:吸血時に体内に入るノミの唾液(タンパク質)が原因となり発症する。
・食物アレルギー:食物の中の成分が原因でアレルギー反応が引き起こされる。
アレルギー体質の発生には、遺伝や生後間もない時期の環境などが関係しているとされていますが、その詳細なメカニズムについてはまだ明確には解明されていません。
特に、以下の犬種で発症が多いといわれています。
・フレンチ・ブルドック
・柴犬
・トイプードル
・シー・ズー
・ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア
・ワイヤー・フォックス・テリア
症状
主な症状には、皮膚のかゆみ、赤みや腫れ、湿疹、耳のかゆみや発赤、くしゃみや鼻水などが見られ、外耳炎や結膜炎などを引き起こすことがあります。
愛犬がしきりに皮膚を舐めたり掻きむしっていたり、耳を掻いたり頭を振ったりする行動が見られる場合、皮膚や耳に強いかゆみを感じているかもしれません。
また、皮膚の状態が悪化するとそのバリア機能が弱まり、他の皮膚疾患(膿皮症やマラセチア性皮膚炎など)の発生リスクが高まるので、注意が必要です。
診断方法
診断では、身体検査やアレルギー検査が行われます。
アレルギー検査には主に以下の方法があります。
・血液検査:犬の血液中に特定のアレルゲンに対する抗体が存在するかを調べます。これには、特定のアレルゲンに対するIgE抗体を測定する検査が含まれます。加えて、リンパ球反応検査も実施します。
・除去食試験、食物負荷試験:食物アレルギーの特定に用いられる方法で、アレルゲンを含まない食事を与えて症状が改善するかどうかを観察します。
治療方法
かゆみのコントロールや炎症を鎮静させるためには、抗アレルギー薬やステロイドを用いた薬物療法を行います。
また薬物療法と並行して、保湿や腸活、皮膚の常在菌の管理を行い、皮膚の健康状態を改善させることも重要です。
さらに、アレルゲンを特定・除去することで、さらなるアレルゲンへの曝露を防ぐことも重要な治療の一環です。
このように当院では、薬物療法、スキンケア、アレルゲンの除外を治療の三本柱としています。
ご家庭での注意点
ご家庭の注意点としては、環境の管理や食事の見直しが重要です。アレルゲンがたまらないよう、こまめに部屋を掃除したり、空気清浄機を使用したり、ノミの駆虫を行うことも効果的です。
保湿ケアや腸の健康維持も大切なポイントです。
当院では、Dermoscentのアニマルスキンケア用品や、ファイナルアンサーのサプリメント、スキンケアスプレーなどを導入し、動物の肌の状態に合わせた適切なケアをご提案しています。
■ファイナルアンサー
ファイナルアンサーについてはこちらのお知らせをご覧ください
Dermoscentの製品については公式HPをご覧くださいまとめ
犬のアレルギー性皮膚炎はさまざまな要因によって引き起こされる疾患であり、適切な治療が必要です。
当院では、アレルギー性皮膚炎に悩む愛犬の健康を支えるために総合的なアプローチを採用しています。薬物療法、アレルゲンの除外、そしてスキンケアを組み合わせることで、皮膚の健康を保護し、愛犬が快適に生活できるようにサポートしています。
また、治療には日々の食事やスキンケアなどご家族の協力が不可欠なため、生活指導も行っています。皮膚の病気でお困りのことがあれば、当院までお気軽にご相談ください。
■皮膚に関する病気はこちらでも解説しています
・犬や猫の皮膚のできもの(体表腫瘤)について千葉県市原市の動物病院なら「姉ヶ崎どうぶつ病院」
続きを読む > -
症例
犬の慢性腎臓病について|静かに進行する病気
腎臓病は犬で発生の多い疾患です。特に、ゆっくりと時間をかけて進行していくものを「慢性腎臓病」と呼び、中〜高年齢の動物で多く発生します。
腎臓は体液中の老廃物を除去する働きを担っており、腎機能の維持は愛犬の健康維持のために非常に重要です。
今回は犬の慢性腎臓病について、症状や治療方法、予防方法などを詳しく解説します。
原因
慢性腎臓病に至る直接の原因は多岐にわたります。
・加齢による腎機能の自然な低下
・遺伝的要因
・細菌感染やウイルス感染による腎炎
・中毒物質の誤飲、腎臓の血流の低下
・尿路閉塞 等
特に、コッカー・スパニエル、サモエド、ドーベルマン、シー・ズー、ヨーキーなどで発症しやすいことが知られていますが、全ての犬種で慢性腎臓病にかかる可能性があります。
症状
慢性腎臓病は、進行状況によって症状が変化します。
初期の慢性腎臓病では、目立った症状が出ないことがほとんどです。
しかし病態が進行すると、水をたくさん飲み、尿をたくさん排泄する多飲多尿や元気ではあるものの痩せていくなどの症状が出始めます。
さらに症状が進行すると、通常は尿として体外に排出されるべき老廃物が血中に蓄積し尿毒症が起こり、食欲低下、元気消失、嘔吐、下痢、便秘などが見られます。
診断方法
慢性腎臓病の診断には、血液検査や尿検査、血圧検査、腹部超音波検査などの画像診断が行われます。特に腎数値や尿比重、尿中の蛋白質の検査を行うことで、腎臓の機能低下や損傷の程度を評価することが可能です。
腎機能が大きく損なわれると、リンやカリウムなどのミネラルのバランスが崩れます。リンやカリウムが体内に蓄積すると、腎臓やその他の臓器に悪影響が出るため、これらの値も調べておくことが重要です。
最近では、FGF23(線維芽細胞成長因子23)の検査も重要な要素となっています。FGF23は血液中のリンの濃度上昇と関連することがわかっているため、食事療法の開始時期の目安となります。
治療方法
慢性腎臓病を完治させる方法は、残念ながらありません。
そのため、慢性腎臓病の治療では食事療法や点滴などを行い、症状の緩和と腎臓の負担軽減が目的となります。吐き気や食欲不振などの症状が強い場合は、吐き気止めなどの薬物療法を行うこともあります。
また当院では、高カリウム血症治療薬であるロケルマを使用しています。カリウム値が高い場合、従来は点滴を行うしかありませんでしたが、ロケルマを使用することで効果的に管理できるようになりました。
加えて、腎機能が弱まっている中で老廃物の排出を促すには、可能な限りたくさん排尿させる必要があります。そのため、積極的な水分補給が重要です。
予防法やご家庭での注意点
慢性腎臓病の予防には、適切な食事管理やストレスの少ない環境づくりを心がけ、腎臓への負担を最小限にすることが重要です。また水は常に清潔なものを用意し、腎臓に悪影響を与えるような物質の誤飲には注意しましょう。
初期の慢性腎臓病では症状がほとんど出ないため、定期的に健康診断を受け、腎臓の健康状態を確認することも重要です。
まとめ
犬の慢性腎臓病は進行性の疾患であり、早期の発見と適切な管理が重要です。
当院では高カリウム結晶治療薬やFGF23の検査など最新の治療法を取り入れ、愛犬の健康をサポートしていますので、慢性腎臓病でお困りのことがあれば、当院までご相談ください。
■当院の泌尿器科に関連する病気はこちらで解説しています。
・犬の膀胱腫瘍
・猫の尿道閉塞について|尿が出なくなったら非常に危険千葉県市原市の動物病院なら「姉ヶ崎どうぶつ病院」
続きを読む > -
症例
猫の尿道閉塞について|尿が出なくなったら非常に危険
尿道閉塞とは、固形物(主に尿道栓子、膀胱の炎症によって産生される膿や粘液や結晶のこと)が尿道に詰まることで尿が正常に出なくなってしまう病気で、下部尿路疾患(膀胱炎)に関連して発症することが多く、オス猫ではよくみられます。
結石が尿とともに自然に外へと流れ出てくれればよいのですが、完全に詰まってしまうと急性腎障害や尿毒症といった病気に発展し、一刻を争う事態となってしまいます。
今回は猫の尿道閉塞について、当院での治療方針を中心にまとめました。
原因
尿の元は腎臓で作られて、尿管、膀胱、尿道を経て排尿されます。尿道閉塞は、その中の尿道という尿を体外に排泄する管が詰まってしまうことで引き起こされます。
一般的には尿道栓子が詰まることが多く、特にオスはメスよりも尿道が細いため、発生しやすいといわれています。
また、稀ではありますが、それ以外にも膀胱に腫瘍があると、その一部が尿道に移動して詰まることもあります。
症状
尿道閉塞になるとほとんど尿が出なくなるため、非常に危険です。そのため、
・頻繁にトイレに行くものの尿が出ない
・尿に血が混じる
・尿がぽたぽたとしか出ない
といった尿に関する症状が現れます。
また、尿を出したいのに出せないため、苦しさや痛みからウロウロとして落ち着かない、元気・食欲がない、といった様子もみられます。
こうした状態が続くと、急性腎障害や尿毒症にまで発展してしまいます。
急速に全身の状態が悪化することで、最終的に発作や不整脈を起こして命を落としてしまう危険性もあります。
診断方法
問診、身体検査、血液検査やエコー、レントゲン、尿検査などを組み合わせて診断します。
治療方法
治療には内科療法と外科療法がありますが、尿道閉塞の猫は生死をさまよっているケースも多いため、まずは緊急の処置として尿道にカテーテルを挿入し、排尿を促す必要があります。
その後、内科療法を選択する場合は、状態に応じて入院下での治療を行い、状態が安定したら自宅で再発を予防する治療(尿路結石用の療法食を与えるなど)、といった方法で管理します。
ただし、こうした治療をしても尿道閉塞を何度も繰り返す場合は、手術が必要になる場合が多いです。
当院では2〜3回、尿道閉塞を繰り返すようであれば手術による治療をお勧めしています。その術式は会陰尿道造瘻術と呼ばれるもので、この手術を行うことで尿道閉塞が再発しづらくなりますが、尿道が陰茎を通らずに皮膚へと開口するため、術後は細菌性膀胱炎を始めとする合併症が起こりやすくなることが知られており、およそ2割で発症し、再発も多いといわれています。
ご家庭での注意点と予防法
具体的な対策としては、新鮮な水を常に飲める状態にしておく、食事中の水分を多くする、トイレは猫の頭数プラス1台用意する、トイレを清潔に保つ、トイレの形状や砂の材質などをお気に入りのものに変えてみる、といったことが挙げられます。
まとめ
尿道閉塞は特にオス猫に多くみられ、放置すると腎障害や尿毒症に進行する恐れがあります。
今回ご紹介したような様子がみられたら、早めに動物病院を受診しましょう。
■当院の関連する病気はこちらで解説しています
千葉県市原市の動物病院なら「姉ヶ崎どうぶつ病院」
<参考文献>
続きを読む >