コラム
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症例
猫の下部尿路疾患(FLUTD)|症状・原因・再発防止の工夫
寒い季節になると、水を飲む量が減り、おしっこが濃くなりやすくなります。その結果として増えてくるのが 猫の「下部尿路疾患(FLUTD)」です。
とくに「何度もトイレに行く」「おしっこが出にくそう」などの症状がある場合は注意が必要です。そのままにすると尿が出なくなり、命に関わる危険な状態に陥ることがあります。少しでも「変だな?」と感じたら、早めに相談することが大切です。
今回は、猫の下部尿路疾患の症状・原因・治療法・再発を防ぐためのケアについてご紹介します。
猫の下部尿路疾患とは?|膀胱や尿道で起こるトラブルの総称
まず「下部尿路」とは、おしっこをためる膀胱と、体の外に出すまでの、尿道の部分を指します。この膀胱や尿道で炎症が起きたり、結石ができて詰まりかけたりする状態をまとめて「下部尿路疾患(FLUTD:Feline Lower Urinary Tract Disease)」と呼びます。
ひとつの病気の名前ではなく、
・膀胱に炎症がある
・結石ができている
・尿道が詰まりかけている/完全に詰まっている
といった 「おしっこに関わるトラブルのセット」 のようなイメージです。
<下部尿路疾患に含まれる主なトラブル>
これらのトラブルは、強い痛みの原因になるだけでなく、尿が出なくなると命に関わる危険があります。
・膀胱炎:膀胱の粘膜が炎症を起こしている状態
・尿道閉塞:おしっこの通り道が詰まって、ほとんど出なくなる状態
・尿石症:おしっこの通り道に石ができる病気
とくにオスはメスに比べて尿道が細く長いため、詰まりやすく、急激に悪化しやすい点に注意が必要です。
主な症状|いつもと違う“トイレのサイン”に気づこう
猫の下部尿路疾患は、おしっこに関わるトラブルのため、多くの場合「トイレの様子」に変化が表れます。「ちゃんと排尿できているかどうか」は、命に関わる重要なサインにもなるため、普段からしっかり観察しておくことが大切です。
<こんな行動が見られたら注意>
・何度もトイレに行く(でも少ししか出ない)
・排尿時にうずくまる、痛そうに鳴く
・おしっこの量が少ない、またはほとんど出ていない
・尿に血が混じる、砂がうっすらピンク色になる
・トイレ以外の場所で排尿する
さらに進行すると、元気がなくなったり、食欲が落ちたり、吐いてしまうこともあります。
<とくに危険なのは「尿道閉塞」>
尿道が完全に詰まると、おしっこがまったく出なくなる緊急事態になります。体内に老廃物がたまり、電解質バランスが崩れ、数時間〜半日程度で命に関わることもあります。
次のような状態が見られたら、夜間でもすぐに受診が必要です。
・おしっこが出ていない
・トイレでずっとうずくまっている
・明らかにつらそう
「いつもと違うな」と感じた時点で、すでに異常が始まっていることもあります。トイレの変化は早期発見のチャンスと考えて、気になることがあればお早めにご相談ください。
▼猫の尿道閉塞についてはこちらで詳しく解説しています
主な原因|ストレス・水分不足・食事が影響
猫の下部尿路疾患は、ひとつの原因で起こるものではなく、複数の要因が重なって発症する病気です。そのなかでも特に関わりが深いのが、水分量・食事・環境ストレスです。
◆水を飲む量が少ない
とくに冬は、気温が下がることで自然と飲水量が減り、尿が濃くなりやすい季節です。
濃い尿は炎症や結晶・結石の発生リスクを高めます。
◆食事内容の影響
ドライフード中心だと水分摂取が不足しがちになります。
さらに、おやつの与えすぎや塩分の多い食べ物、人の食べ物をつまみ食いする習慣は尿の性質を変え、結石を作りやすくします。
◆ストレス・環境の変化
猫は環境の変化に敏感で、引っ越し・多頭飼い・トイレの不快感・寒暖差などのストレスが原因で、膀胱炎を起こすことがあります。
<冬はリスクが重なる季節>
冬は水を飲む量が減るうえ、運動量も低下しやすく、寒さからトイレの回数も少なくなります。こうした要因が重なることで、下部尿路疾患の発症や再発のリスクが高まります。
だからこそ冬は、いつも以上に「水分」「食事」「ストレス対策」を意識することが大切です。
治療と自宅ケア|原因に合わせた治療で再発防止
下部尿路疾患が疑われる場合は、まず尿検査・レントゲン・エコー検査を行い、炎症や結石の有無、尿の状態を確認します。原因を見極めることが、適切な治療につながります。
<主な治療方法>
・膀胱炎:抗菌薬や消炎剤を使って炎症を抑えます
・結石:療法食や飲水量を増やすケアを行い、必要に応じて外科手術で結石を取り除きます
・尿道閉塞:尿道カテーテルを用いて尿を排出し、緊急処置を行います
症状や体調に応じて、点滴や内服治療を併用することもあります。特にオスの尿道閉塞は緊急性が高いため、すぐの対応が必要です。
<ご家庭でのケアのポイント>
治療と並行して、日常生活の工夫も再発予防に大切です。
・ウェットフードや自動給水器を活用し、水分を摂りやすくする
・トイレはいつも清潔に保ち、静かで落ち着ける場所に設置する
・おやつや塩分の多い食べ物を控え、フード内容を見直す
下部尿路疾患は再発しやすい病気のため、定期的な尿検査や食事管理を続けることが重要です。異変を感じたときは早めに受診し、治療とケアを継続していきましょう。
まとめ|「トイレの変化」は早めの受診が安心
猫の下部尿路疾患は、早めに治療すれば重症化を防げる一方、放置するとおしっこが出なくなり、命に関わることもある病気です。とくに冬は水を飲む量が減り、尿が濃くなることで発症リスクが高まります。
トイレの回数が増える、痛そうに排尿する、尿が少ない・出ていないなどの変化は、身体が発している大切なサインです。「少し変だな」と感じた時点で、すでに異常が進行していることもあります。
姉ヶ崎どうぶつ病院では、尿検査や画像検査に加えて、食事管理や生活面のアドバイスも行い、再発しにくい体づくりをサポートしています。愛猫のトイレの変化に気づいたときは、お早めにご相談ください。
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症例
猫の脂肪肝(肝リピドーシス)とは?食欲不振が続くと命に関わることも
「なんだか元気がない」「ごはんをほとんど食べない」──愛猫にそんな様子が見られても「気まぐれかな?」と様子を見てしまうことはありませんか?
しかし、猫は短期間の絶食でも深刻な病気につながることがあります。そのひとつが「脂肪肝(肝リピドーシス)」と呼ばれる病気です。食欲不振がきっかけとなり、命に関わる状態へ進行することもあるため、早めの受診がとても大切です。
今回は、猫の脂肪肝の原因・症状・治療・ご自宅でのケア方法について解説します。
猫の脂肪肝とは?短期間の絶食で肝臓に負担がかかる病気
脂肪肝とは、肝臓に脂肪が過剰にたまってしまうことで、臓器としての働きが十分に行えなくなる状態をいいます。
肝臓は栄養素を代謝したり、体内の有害物質を解毒したりと、生命維持に欠かせない役割を担っています。そこに脂肪がたまり過ぎると、肝臓の働きが弱まり、全身の健康に影響が及んでしまうのです。
とくに猫は「絶食に弱い動物」とされており、食事がとれない状態が数日続くと、エネルギー不足を補うために体内の脂肪が急速に分解されます。その脂肪が肝臓に蓄積しやすく、代謝に負担がかかることで脂肪肝が進行してしまうのです。
この状態が続くと、肝臓の機能が低下し「食べない → 体内の脂肪を分解 → 分解された脂肪が肝臓にたまる → 肝臓の働きが低下 → さらに食べられない」という悪循環に陥ってしまいます。
進行すれば命にかかわることもありますが、早期に気づいて治療を始めれば回復が見込める病気です。食べ方の変化が見られた際には「少し様子を見る」よりも、早めの相談が安心につながります。
どんな猫がかかりやすい?肥満・ストレス・環境変化が引き金に
脂肪肝は、どの猫にも起こり得る病気ですが、以下の条件に当てはまる場合特に注意が必要です。
◆肥満傾向のある猫
体内の脂肪量が多く、絶食時に肝臓に負担がかかりやすくなります。
◆ストレスや環境変化で食欲が落ちやすい猫
引っ越し・来客・多頭飼育などがきっかけになることもあります。
◆慢性疾患を抱える猫
口内炎・糖尿病・膵炎などは食欲低下につながりやすいため、注意が必要です。
◆急なダイエットを経験した猫
摂食量の急変は脂肪肝のリスクを高めます。
脂肪肝は“気づいたときには進行していた”というケースも少なくありません。だからこそ「うちの子は当てはまるかも」と感じたタイミングで、健康チェックのきっかけにしていただくことが大切です。
主な症状と受診の目安|「食べない」「黄疸」「元気がない」は要注意
脂肪肝の初期症状は見逃されやすいため、次のような変化がないか注意深く観察しましょう。
<初期にみられるサイン>
・食欲不振・食べむら
・体重減少
・毛づやが悪くなる
・少し元気がない
・嘔吐
<さらに進行するとみられるサイン>
・黄疸(白目・耳・歯ぐきが黄色くなる)
・水をあまり飲まない
・じっと動かない、反応が乏しい
もっとも危険なのは「食べない状態が続く」ことです。普段はよく食べる猫が、急に食事を残すようになったり、2日続けてほとんど食べない場合は、すぐに動物病院に相談してください。早い段階での対応が、命を守ることにつながります。
治療と食事管理|栄養サポートで回復を目指す
脂肪肝の治療では、まず血液検査やエコー検査で肝臓の状態を詳しく確認します。進行度を把握することで、必要な治療と栄養管理の方針を明確にしていきます。
<治療の基本は「栄養補給」>
脂肪肝において最も重要なのは「十分な栄養を確保すること」です。食欲が戻るまでは、以下のような方法で無理のないサポートを行います。
・チューブ給餌(鼻カテーテル・胃ろう)による栄養補給
・肝臓の働きを助ける点滴・内服治療
・嘔吐や脱水への対症療法
「チューブ」と聞くと驚かれることもありますが、負担を抑えながら必要なエネルギーを確実に届けるための治療法です。
また、脂肪肝の背景に口内炎・糖尿病・膵炎などが隠れている場合は、それらの治療も並行して行います。
<回復後の再発予防>
治療によって状態が落ち着いた後は、再発を防ぐために次のようなケアが必要です。
・肝臓に配慮した療法食・高栄養フードの継続
・急な断食や過度なダイエットを避ける
・ストレスや生活環境の見直し
・定期的な体重・健康チェック
適切な治療と栄養サポートを続ければ、回復が期待できる病気です。気になる変化があれば、ぜひ早めにご相談ください。
まとめ
猫の脂肪肝は、ごはんを食べない期間が続くことで発症しやすい病気ですが、早期に気づいて治療を始めれば回復を目指すことも可能です。
姉ヶ崎どうぶつ病院では、血液検査やエコー検査で肝臓の状態を丁寧に確認したうえで、必要な栄養管理を含めた治療プランをご提案しています。また、治療後の再発を防ぐために、食事内容や生活環境についてのサポートも行っています。
「少し食べる量が減ってきた」「元気がないように見える」──そんな小さな変化こそ、脂肪肝のサインかもしれません。気になることがあれば、どうかお早めにご相談ください。
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