コラム
犬と猫の血小板減少症|皮膚のあざや粘膜の点状出血が見られたら要注意
血小板減少症とは、何らかの原因で止血の役割を持つ血小板が減少してしまい、さまざまな症状が現れる病気です。
この病気は、犬と猫の両方に見られますが、猫よりも犬での発生が多いと言われています。特にプードルやシー・ズー、マルチーズ、コッカー・スパニエルなどの一部の小型犬に多く見られることが知られています。
今回は、犬と猫の血小板減少症の原因や症状、診断法、治療法などについて詳しく解説します。
血小板の役割と正常値
血小板は赤血球や白血球と同様に、血液中に含まれる重要な成分です。出血が起きたときには、血小板が速やかに出血部位に集まり、止血の役割を果たします。
そのため、血小板が正常値より減少すると、体内で出血を止めることが難しくなってしまいます。
血液検査における血小板の正常値は、犬では15〜45万/μL、猫では15〜40万/μLとされています(各検査機関によって若干の違いがあります)。
ただし、キャバリア犬の場合、健康な状態でも生まれつき血小板数が少ないことがあり、これは血小板減少症とは異なります。
血小板数が基準値を下回ったからといって、すぐに血小板減少症と診断されるわけではありません。血小板数の推移や臨床症状を総合的に考慮して診断が行われます。
また、採血にかかる時間や手技によっても血小板数は大きく変動し、1回の血液検査だけでは判断できないため、正確に把握するためには複数回の検査や継続的な観察が必要です。
原因
血小板が減少する理由は複数考えられますが、よくある原因としては以下のものが挙げられます。
・免疫介在性血小板減少症(自己の免疫が血小板を攻撃してしまう)
・過度の出血
・播種性血管内凝固症候群
・骨髄疾患
・腫瘍
・その他の原因(感染症や中毒など)
犬と猫の血小板減少症は、その原因によって免疫介在性と続発性に分けることができます。
特に多いのが犬の免疫介在性血小板減少症で、体の防御機能である免疫機能が誤って自分の血小板を攻撃してしまうことで、血小板数が減少します。
一方、続発性血小板減少症とは、骨髄疾患、腫瘍、感染症、薬剤などの影響を受けて、二次的に発生するものです。
猫の場合、ウイルス感染症の後に血小板が減少することがありますが、その因果関係やなぜウイルス感染の後に血小板が減少するのかについては、まだ不明な部分も多いです。
症状
血小板減少症の代表的な症状として、皮膚のあざ (紫斑)や粘膜の点状出血などの内出血が挙げられます。これは体内で常に起こっている微小な出血を、血小板が十分に止血できないために生じるものです。
特に、おなかや脇、股など皮膚が薄い部分や、歯茎の粘膜に現れることが多いですが、毛をかき分けて観察しないと気づきにくいこともあります。
さらに、症状が進行すると、元気や食欲がなくなり、嘔吐、血尿、血便などの症状が見られることがあります。
犬と猫で大きな症状の違いはありませんが、猫の場合は症状が見つけにくいことが多いです。元気がなくなって隠れがちになったり、食欲が低下したりすることがよくあります。
診断方法
内出血の兆候などから血小板減少症が疑われる場合、まずは血液検査を行い、赤血球や白血球を含む全ての血球成分の数を確認します。
また、血球の形に異常がないかを調べるために、少量の血液を薄く広げて顕微鏡で観察する血液塗抹検査を行います。
さらに、レントゲン検査やエコー検査を行い、血小板減少症を引き起こす可能性のある他の病気が隠れていないかを確認します。
骨髄検査は全身麻酔をかけて太い骨に針を刺し、骨髄成分を取り出して評価する検査ですが、体への負担が大きいため、必ずしも行うわけではありません。骨髄の病気が疑われる場合や、血小板減少症の原因が特定できない場合に行うことが多いです。
また、必要に応じて血液の凝固機能検査や感染症の検査を行うこともあります。
治療方法
血小板減少症の治療は原因によって異なります。例えば、特定の病気が原因であれば、その病気を治療することで血小板減少も改善されることが多いです。
自己免疫が原因の場合は、ステロイドなどの免疫抑制剤を使用して、免疫の過剰反応を抑えます。免疫介在性溶血性貧血(免疫が赤血球を攻撃して貧血になる病気)の併発や、症状が重い場合は、入院して集中治療や輸血が必要になることもあります。
また、再発を繰り返す場合や、ステロイドが効かない場合は、脾臓を摘出する手術を検討することもあります。脾臓摘出は、血小板を破壊する主な場所を取り除くことで、血小板数の回復を目指す方法です。
予後と管理
残念ながら、血小板減少症を予防する確実な方法はありません。
予後は症例によって異なりますが、原因となる病気の治療がうまくいったり、免疫抑制剤が効果的に作用したりすれば、良い結果が期待できます。
しかし、免疫抑制剤に効果がなく、免疫介在性溶血性貧血を併発した場合には、症状が悪化して最悪の場合、命を落とすこともあります。
免疫が関与している場合には、免疫抑制剤を継続的に使用することが非常に重要です。症状が良くなったからといって、自己判断で薬を中断したり通院をやめたりすると、再発して症状がさらに悪化することが多いので、自己判断での薬の中断は避けましょう。
*血小板数の推移を確認するために、継続的な通院が必要となることをご理解ください。
また自宅では、皮膚に内出血の症状が出ていないか、怪我の原因となるものがないかを定期的に確認しましょう。さらに、緊急時に備えて、近くの夜間救急病院やかかりつけ医が夜間対応をしているかどうかを事前に調べておくことも大切です。
まとめ
血小板減少症は、治療が遅れると命にかかわる危険な病気ですが、早期に免疫抑制剤などで適切に治療すれば、その後は安定した生活を送ることができます。
皮膚や粘膜に内出血や点状出血の兆候が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
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