コラム
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症例
犬と猫の熱中症について|暑い夏を安全に過ごすために!
日本の夏は高温多湿で、人間だけでなく動物も熱中症になる危険があります。
熱中症は重症化すると、多臓器不全や脳へのダメージによる後遺症など、命に関わる深刻な結果を招くことがあるため、治療よりもまず熱中症を予防することが非常に重要です。
今回は、犬と猫の熱中症の症状や原因、治療法、予防法などについて詳しく解説します。
熱中症とは
熱中症とは、高温の環境にいることで体温が急激に上昇し、重要な臓器が高温にさらされることによって発症する障害の総称です。
犬や猫の平均体温は38℃程度で人間よりも高いですが、熱中症になると40〜42℃まで体温が上がることがあります。
一度茹でた卵が、冷蔵庫で冷やしても元に戻らないように、熱中症で受けた細胞のダメージも不可逆的(治すことができない)です。そのため、治療よりも予防がとても重要なのです。
犬と猫は人間のように汗をかいて体温を下げることができません。また、全身が毛で覆われているため、熱中症になりやすいと言われています。
このような特徴を持つ愛犬や愛猫のために、しっかりとした予防策を講じることが必要です。
熱中症の症状
犬や猫の熱中症の主な症状は以下の通りです。
<初期症状>
・呼吸が荒くなる(犬の場合は舌を出して、ハッハッと呼吸をしている)
・よだれを多く垂らしている
・不安げな様子が見られる
特に犬は体温が上がると、汗をかく代わりにパンティングと呼ばれる「ハッハッ」と激しい口呼吸をします。これは暑がっているサインであり、熱中症の初期症状でもあるため、十分に注意してください。
<進行した時の症状>
・下痢や嘔吐
・めまい(ふらつき)
・虚脱(ショックの一種で、血圧低下、頻脈、チアノーゼなどが見られる状態)
<重度の症状>
・意識レベルの低下(呼びかけに反応しないなど)
・全身のけいれん
夏の散歩の後や車内に放置した後にこれらの症状が見られたら、熱中症の可能性が極めて高いです。
なお、車内に冷房をかけていても熱中症は発生しますので、愛犬や愛猫を車内に残すことは絶対に避けましょう。
熱中症の原因と危険因子
熱中症の主な原因は、高温多湿の環境にあります。
体温が急激に上昇しやすく、パンティングをしても効率的に体温を下げることができないため、熱中症になってしまいます。
さらに、高温多湿に加えて、夏場の激しい運動や興奮による活動量の増加、水分不足、肥満、高齢、健康問題を抱えていることも、熱中症の危険因子となります。
特に肥満や短頭種気道症候群、気管虚脱などの問題を抱えている場合、高温環境下で呼吸状態が悪化し熱中症にかかりやすくなりますので、これらの犬や猫には特に注意が必要です。
熱中症の予防法
熱中症を予防する最も効果的な方法は、高温多湿の環境をできるだけ避け、十分な水分補給を行うことです。
夏場は早朝や夜の涼しい時間帯に散歩をさせ、直射日光を避けるようにしてください。絶対に太陽が照りつける日中に散歩をさせることは避けましょう。
特に気温が高い日は、不必要な外出や運動を避け、散歩は最低限に留めましょう。外にいる時は、なるべく日陰を歩き、こまめに休憩を取り、水分補給を行ってください。
また、愛犬や愛猫の呼吸が荒い、よだれを多く垂らしている、不安げな様子が見られる場合は、熱中症の初期症状の可能性があります。その際は、速やかに涼しい場所へ移動し、動物病院を受診しましょう。
熱中症が疑われる場合の対処法
熱中症が疑われたら、まずは速やかに屋内や日陰などの涼しい場所へ移動させましょう。これ以上体温を上げないことが何よりも大切です。
次に、濡れタオルで体を拭いたり、水を体にかけて風を当てたりして体を冷やしてください。氷嚢がある場合はタオルで包み、首や太ももの内側に挟むと効果的です。
また、水を飲める場合はしっかりと水分補給をさせることも大切です。ただし、水を飲もうとしない場合は無理に飲ませないでください。
これらの応急処置が済んだら、速やかにかかりつけの動物病院または救急病院に事前に連絡し、獣医師の指示と診察を受けてください。
飼い主様ができる準備と対策
普段から愛犬や愛猫の様子を注意深く観察し、栄養バランスの取れた食事と十分な水分補給、そしてしっかりとした休息を徹底しましょう。
熱中症対策グッズの使用(クールマット、ペット用の冷却ベスト、小型扇風機など)や、エアコンを適切に使うことを意識してください。飼い主様が我慢できる暑さでも、愛犬や愛猫には危険な暑さになることがありますので、夏場はエアコンを常につけておくことをおすすめします。
また、犬の熱中症は車内に放置されることで発生するパターンが多いため、短い時間であっても車内に置き去りにせず、運転中も常にエアコンをつけましょう。
万が一に備えて、かかりつけ動物病院の診療時間や近くの救急病院の場所を調べておき、熱中症になった際にもすぐに獣医師と連携できる体制を整えておくことが大切です。
まとめ
熱中症は重症化すると命に関わることがあり、重篤な後遺症が残る恐ろしい病気です。しかし、飼い主様の行動次第で防ぐことができるため、予防が何よりも大切です。
熱中症予防は飼い主様の大きな責任であるとご認識いただき、夏場はエアコンを適切に使用し、早朝や夜の涼しい時間帯に散歩に行くなどして、愛犬や愛猫と共に快適で安全な夏を過ごしましょう。
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症例
犬と猫の白内障と核硬化症の違いについて|どちらも目が白く濁る病気
白内障は、水晶体のタンパク質が遺伝的な要因や後天的な原因(外傷性、代謝性、加齢性、続発性)で元に戻せないほど変性し、目が白く濁る疾患です。
核硬化症は、水晶体の中心にある水晶体核が加齢に伴って硬くなり、青みを帯びて白く見える状態です。核硬化症は白内障と見た目が似ていますが、これは加齢による変化であり病気ではありません。
今回は、犬と猫の白内障と核硬化症の違いについて詳しく解説します。
白内障について
正常な水晶体は透明で、目に入った光を屈折させてピントを調節し、網膜上に像を結ぶカメラのレンズのような機能を持っています。
水晶体のタンパク質が加齢、遺伝、糖尿病などの基礎疾患による影響で不可逆的に変性し、白濁化します。
白内障の初期症状としては、以下が挙げられます。
・急に段差や階段を踏み外すようになる
・光に敏感になる
・前足で目を擦るような行動が増える
・暗い場所での行動に躊躇するようになる
白内障は文字通り目が白く濁りますが、初期段階では水晶体の一部のみが白濁化するため、視覚への影響はほとんどなく、痛みや不快感もありません。
しかし、進行すると「成熟白内障」や「過熱白内障」の段階に移行します。
・成熟白内障:この段階では、水晶体のほぼ全体が白く濁り、正常に見ることが困難になります。
・過熟白内障:さらに進行した段階で、水晶体が融解し、脱臼することもあります。この状態では、水晶体タンパク質が溶け出してぶどう膜炎を引き起こすことがあり、痛みを伴うこともあります。
白内障の進行に伴い、いくつかの続発性疾患のリスクが高まります。
特に注意すべきなのは、緑内障、ぶどう膜炎、水晶体脱臼です。緑内障は眼圧の上昇により視神経が障害される深刻な疾患で、白内障の進行や手術後に発症するリスクがあります。ぶどう膜炎は先述の通り過熟白内障で起こりやすく、水晶体脱臼も白内障の進行に伴って発生する可能性があります。これらの続発性疾患は早期発見と適切な治療が重要です。
白内障の診断には、まず身体検査や対光反射、威嚇瞬目反応、綿球落下試験などの神経学的検査を行い、視覚の状態を確認します。その後、散瞳剤を使用して瞳孔を広げ、スリットランプを用いて水晶体の白濁の度合いを評価します。
治療方法としては、以下のものがあります。
・薬物療法:ピレノキシン点眼薬を使用します。これは初期段階での進行を遅らせるために有効です。
・外科治療:角膜を切開して超音波乳化吸引装置を用いて白く濁った水晶体を吸引し、水晶体嚢内に人工の犬用眼内レンズを挿入します。
基本的に白濁化した水晶体を元の状態に戻すことはできないため、白内障が成熟白内障や過熱白内障まで進行し視力を失った場合は、外科手術が唯一の治療法となります。
※場合によっては外科手術が非適応になるケースもあります
核硬化症について
核硬化症とは、水晶体の中心にある水晶体核が加齢に伴って変性し硬くなり、青みを帯びて白く見える状態です。名前に「症」という漢字が含まれているため、病気と思われがちですが、これは加齢による自然な変化であり、厳密には病気ではありません。
白内障とは異なり、核硬化症では水晶体の透過性は低下しないため、視力を失うことはありません。そのため、主な症状は飼い主様が、目が白いことに気が付く程度です。
核硬化症の診断は、見た目だけでは白内障と核硬化症の区別が難しいため、スリットランプ検査が必要です。スリットランプ検査とは、スリット光という細い光で眼球の各部を照らし、それを顕微鏡で拡大して観察する検査です。
核硬化症で白くなった水晶体核を元に戻す治療法はありませんが、そもそも加齢性の変化であるため治療は必要ありません。
白内障と核硬化症の違い
白内障と核硬化症は、どちらも目が白く見える症状を引き起こしますが、その原因と影響は大きく異なります。
白内障 核硬化症 原因 ・水晶体タンパク質の不可逆的な変性と混濁により発生 ・加齢に伴う水晶体核の変性により発生 症状 ・進行すると水晶体の大部分が白濁し、視覚を失うことがある ・水晶体タンパク質の溶解によりぶどう膜炎を引き起こすことがある
・加齢に伴って水晶体核が白濁するが、視覚を失うことはない ・ぶどう膜炎などの合併症は起こらない
診断方法 ・身体検査と神経学的検査で視覚確認 ・スリットランプ検査で水晶体の光透過性や境界を確認
治療方法 ・点眼薬や外科治療を行う ・治療はせず経過観察が主な対応 予後 ・適切な治療を受ければ良好 ・放置すると視力喪失や重度の組織変性を引き起こし、最終的には眼球癆に至る可能性がある
・非常に良好で、特別な治療は不要、経過観察で問題なし 予防と早期発見の重要性
白内障と核硬化症を飼い主様が判断することは難しいため、動物病院での眼科検診を含む全身的な健康診断を定期的に受けることが何よりも大切です。
白内障は初期に発見し治療を開始できれば、点眼薬や抗酸化作用のあるサプリメントの使用により、進行を遅らせる可能性があります。
※ただし、効果には個体差があり、全ての症例で効果が見られるわけではありません。
普段から愛犬や愛猫の目の状態を注意深く観察し、目が少しでも白く濁っていると感じたり、目を引っ掻いたり壁や床に擦り付ける様子が見られれば、すぐに獣医師に相談してください。
まとめ
白内障は加齢や遺伝的な要因、糖尿病などによって水晶体が白く濁る病気です。
一方、核硬化症は水晶体核が加齢に伴い変性する自然な加齢性変化であり、厳密には病気ではありません。これが最も重要なポイントです。
白内障は放置すると失明の恐れがあるため、動物病院で適切な治療を早期に受けることが大切です。
眼の病気は軽視されがちですが、眼は生活の質に大きく影響する非常に大切な器官なので、普段から定期的に健康診断を受け、愛犬や愛猫の眼の健康を維持しましょう。
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症例
犬の会陰ヘルニアについて|お尻の周りが腫れている?
「ヘルニア」と聞くと、椎間板ヘルニアをイメージする方が多いと思いますが、「ヘルニア」という言葉自体は臓器が本来の正しい場所から飛び出ている状態を指します。
会陰ヘルニアは、会陰部と呼ばれる肛門周囲の筋肉が萎縮して隙間ができ、その隙間に直腸や膀胱、前立腺などの臓器が飛び出してしまう病気です。
今回は犬の会陰ヘルニアの原因や症状、診断法、治療法などについて詳しく解説します。
原因
会陰ヘルニアは、肛門周囲の筋肉の構造異常によって発生します。正常な状態では、これらの筋肉は密接に連携して肛門の構造を支えていますが、何らかの理由でこれらの筋肉が萎縮し、縮んで薄くなると、筋肉同士の間に隙間が生じます。
この隙間から臓器や脂肪が突出し、肛門の周囲が膨らむことで会陰ヘルニアが形成されます。
会陰ヘルニアの直接的な原因はまだ明確には解明されていませんが、未去勢の中高齢のオス犬に多く見られることから、男性ホルモンが発症に関与していると考えられています。
特にミニチュアダックスフンド、ポメラニアン、コーギーなどの小型犬が好発犬種とされています。
また、慢性的な咳や吠え癖のある犬は腹圧が高まりやすく、お尻に力を入れやすい状態を引き起こすため、会陰ヘルニアの発症リスクが高くなるとされています。
症状
一般的にヘルニア孔から腸管が飛び出すことが多くありますが、飛び出す臓器によって症状は様々です。
<腸管が飛び出した場合の症状>
・便秘やしぶり(排便困難):腸管の一部が飛び出してしまうと、腸の動きが妨げられ、便秘や排便時の困難が生じます。
・肛門周囲の膨らみ:ヘルニア孔から腸管が飛び出し、お尻が膨らんで見えることがあります。これにより、しっぽや肛門の位置が異常になることもあります。
・直腸憩室の形成:ヘルニアが進行すると、直腸の一部が袋状に拡張し、そこに便が溜まるようになります。
・直腸破裂:溜まった便が原因で直腸が破裂すると、便に含まれる細菌が血流に入り、敗血症を引き起こし、最悪の場合死に至る危険性があります。
<膀胱が飛び出した場合の症状>
・排尿障害:膀胱が部分的にヘルニア孔から突出すると、尿の排出が困難になります。これが続くと膀胱の機能が低下し、排尿時の痛みや不快感が生じることがあります。
・腎不全:排尿障害が長引くと尿が膀胱に逆流し、腎臓に負担をかけることがあります。これが原因で腎不全に進行することもあります。
尿が出ないなどの症状がある場合はすぐに動物病院を受診しましょう。
診断方法
会陰ヘルニアはその特徴的な見た目からある程度視診や触診で診断することが可能です。
一方で、身体検査だけでどの臓器が飛び出しているか正確に判断することはできないので、レントゲン検査やエコー検査を実施します。
膀胱や腸管が飛び出している場合は、それぞれ腎不全や敗血症になっていないか確認するために血液検査を行うこともあります。
治療方法
会陰ヘルニアの治療においては、根本的な解決を目指す場合、外科手術が最も効果的な方法とされています。
内科的治療は溜まった便をかき出したり、便を柔らかくする薬を用いたりすることがありますが、病気自体を治すわけではないため、以下の手法が一般的に採用されます。
・外科手術
手術では、飛び出した臓器を元の正しい位置に戻し、筋肉の隙間を塞ぎます。
・去勢手術
会陰ヘルニアの発症に男性ホルモンが影響している可能性があるため、未去勢のオス犬に対しては、再発防止のためにヘルニアの手術と同時に去勢手術を行います。
会陰ヘルニアは、研究ごとに数値に幅はあるものの、約30%のケースで術後に再発することが報告されています。
また、会陰ヘルニアは両側性疾患であるため、一方の筋肉を修復した後、もう一方の筋肉が緩むことで新たなヘルニアが形成されることがあります。
再発を防ぐため、当院ではヘルニア孔の閉鎖だけでなく、精管と結腸の腹壁固定を含む手術を必要に応じて実施しています。
予防法やご家庭での注意点
去勢手術を早期に行うことは、会陰ヘルニアや前立腺肥大などの病気の予防につながります。
また、慢性的な咳や吠え癖があると腹圧が高まり、会陰ヘルニアを発症することがあるため、これらの症状が見られる場合は早めに獣医師にご相談ください。
まとめ
会陰ヘルニアは、会陰部と呼ばれる肛門周囲の筋肉が萎縮して隙間ができ、その隙間に直腸や膀胱、前立腺などの臓器が飛び出してしまう病気です。男性ホルモンの関与が疑われており、早期の去勢手術が予防に効果的だと考えられています。
外科手術が基本となりますが、再発の可能性もありますので、手術後は愛犬の排便や排尿の様子をこまめに観察し、適切なケアを心がけましょう。
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症例
犬と猫の歯周病について|ご自宅での歯磨きが大切
歯周病は犬や猫の疾患の中でも特に頻繁に見られる疾患で、実際に犬では約80%が、猫では約70%が3歳までに歯周病を発症しています。
歯周病が進行すると心臓や脳、腎臓など全身の臓器に悪影響を及ぼすため、歯周病予防は極めて重要です。
今回は犬と猫の歯周病の原因や症状、診断法、治療法などについて詳しく解説します。
原因
口腔内には数多くの細菌が生息しており、特に歯周病の原因となるのは歯周病原性細菌です。
歯磨きが不十分だと、食べかすが歯の表面に付着し、その中で細菌が繁殖して歯垢となります。この繁殖した歯周病原性細菌が分泌する酵素により、歯周組織は徐々に破壊されていきます。
歯周病の発症には、細菌因子だけでなく、宿主因子(犬や猫の免疫機能など)や環境因子(栄養状態やストレスなど)も関わっており、これらが互いに影響し合って病気が進行します。
歯が痛くなると歯磨きを余計に嫌がり、歯周病の悪化へとつながるため、日頃から歯磨きを行い、歯周病の発症を予防することが大切です。
症状
歯周病は大きく分けて、歯肉炎と歯周炎の2つのステージに分類されます。
歯肉炎は、歯周病の初期段階であり、主に歯肉に炎症が生じた状態を指します。
代表的な歯肉炎の症状として、以下が挙げられます。
・歯肉の炎症 (赤みや腫れ、痛み)
・歯肉から出血しやすくなる
・口臭がする
多くの飼い主様は、この初期の段階では症状に気付かないことがありますが、放置すると病状は確実に進行し、歯肉炎はより深刻な歯周炎へと進展します。
歯周炎は炎症が歯肉だけでなく、歯槽骨やその周囲の組織にも及びます。
代表的な歯周炎の症状は、以下の通りです。
・歯肉の強い腫れ
・歯肉から黄色や白色の膿が出る
・強い口臭がする
・口の痛みによる食欲不振
・歯のぐらつきや抜け落ち
・口周辺の顔が腫れる (歯周炎による炎症が顔にまで及ぶため)
重度の歯周病では、歯槽骨という歯の土台となる骨が溶け、骨髄炎や顎骨の骨折といったさらに深刻な問題へと進行することがあります。
診断方法
歯周病は歯の表面の汚れに関するものだけではなく、歯とその周囲の組織全体を巻き込む病気です。
そのため、診断には歯肉や歯根膜、さらには歯周ポケットの深さなど、複数の要素を総合的に評価する必要があります。
肉眼で見ることができるのは歯の表面と歯肉の状態に限られるため、より正確な診断を行うためには全身麻酔下での詳細な口腔検査が必要となります。
口腔検査では、主に以下の項目を実施・確認します。
・歯垢と歯石の付着状態
・歯肉の炎症の程度
・歯のぐらつき程度
・歯周組織の破壊程度
・歯周ポケットの深さ
・口腔内X線検査
外見上は歯が綺麗に見えることもありますが、実際には歯周組織の状態、歯のぐらつき具合、歯周ポケットの深さなどを確認した結果、抜歯せざるをえないケースもあります。
治療方法
歯周病治療の基本は全身麻酔下での超音波スケーリングによって付着した歯垢・歯石を除去することと、ハンドスケーリングによって歯周ポケットの汚れ(歯垢と歯石)を除去することです。
無麻酔でのスケーリングは表面的な汚れしか取ることができない上に、動物に強い痛みと恐怖感を与えるため推奨されていません。
基本的には歯を温存するように治療を行いますが、歯槽骨に炎症が及び、歯がぐらついている場合は抜歯の必要があります。
スケーリングの手順は、以下の通りです。
①全身麻酔をかける前に、血液検査や身体検査を行います。
②体調に問題がなければ、全身麻酔をかけます。
③口腔内のレントゲン検査を行った上で歯周プローブを用いて、歯槽骨の吸収状態を確認し、抜歯が必要な歯を特定します。
④超音波スケーラーという特殊な機械を用いて、歯垢や歯石を除去します。
⑤必要に応じて抜歯を行います。
⑥残った歯に対して、キュレットスケーラーという機械を用いてルートプレーニングを行い、歯周ポケットの汚れを除去します。
⑦最後に、歯の表面を滑らかにして歯垢が再び付着しづらくなるために、歯面研磨(ポリッシング)を行います。
スケーリング後は飼い主様への歯磨き指導を行い、ご自宅でも適切な口腔ケアを行っていただきます。
また、インターベリーという薬を使用することで、免疫担当細胞を活性化し、歯周病原細菌を減らして歯肉炎を改善します。
予防法やご家庭での注意点
歯周病を予防するためには、家庭での日常的な歯磨きが非常に重要です。
特に、幼い頃から歯磨きの習慣をつけることで、愛犬や愛猫がデンタルケアに慣れ、日々のお手入れが格段にやりやすくなります。
もし歯磨きをどうしても嫌がる場合は、まずは口や歯に触られることに慣れさせることから始めましょう。
口や歯に触らせてくれたら、大好きなおやつを少しあげて思いっきり褒めることで、ポジティブな印象を持たせることができます。
当院では歯磨きのやり方についてのパンフレットや歯ブラシのご用意もありますのでお気軽にご相談ください。
また、ドライフードやデンタルガムを使用することも、歯に付着した歯垢を自然に落とすのに役立ちます。これらの製品は噛むことで歯垢が落ちやすくなるため、獣医師と相談の上、愛犬や愛猫に適したドライフードへの切り替えやデンタルガムの導入を検討してみるのもおすすめです。
まとめ
歯周病は犬と猫で一般的な疾患ですが、正しい口腔ケアによって予防することが可能です。
毎日の歯磨きを習慣化し、定期的な健康診断を受けることで、口腔環境を常に清潔に保つことが重要です。これは、歯周病の予防だけでなく、全身の健康状態を維持することにもつながります。
歯磨きに関してご不安なことがありましたら、当院にご相談ください。
また、当院では2024年6月1日から8月31日までスケーリング(歯石除去)キャンペーンを実施いたします。
通常の費用より20%割引でスケーリングを受けることが可能ですので、この機会にぜひご検討ください。
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犬の僧帽弁閉鎖不全症について|愛犬が咳や息切れをしていたら要注意
僧帽弁とは心臓の左心房と左心室を隔てる弁で、心臓内で血液の逆流を防ぐ役割を担っています。
しかし、何らかの原因で僧帽弁が厚く変形したり、僧帽弁を支える組織に異常が起きたりすると、血液が逆流してしまい、この状態を「僧帽弁閉鎖不全」と呼びます。
今回は犬の僧帽弁閉鎖不全症の原因や症状、診断法、治療法などについて詳しく解説します。
原因
犬の僧帽弁閉鎖不全症は、加齢などで僧帽弁に変性が起こり、その動きが鈍くなることが原因と言われています。
僧帽弁閉鎖不全症の全ての原因は完全には解明されていないものの、チワワ、プードル、ポメラニアン、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなどの小型犬種で頻繁に発症することから、遺伝的な要因が関与している可能性が高いとも考えられています。
症状
僧帽弁が正常に機能しなくなり心臓内で血液が逆流すると、左心房は肺から送り込まれる血液と逆流してきた血液の両方を受け入れることになり、過剰な血液によって容量オーバーの状態となります。
この結果、左心房は負荷により拡大します。
初期段階では、心臓は心拍数を増やすことで拡大した左心房の負担に対抗し、心拍出量の低下を補おうとしますが、病状が進むと心臓はこの負荷に耐えられなくなり、心不全を引き起こします。
アメリカ獣医内科学会 (ACVIM)は、犬の僧帽弁閉鎖不全症の進行具合を以下の5つの段階に分類しています。
・Stage A:現時点で心臓に異常はないが、今後僧帽弁閉鎖不全症になるリスクの高い犬種。
・Stage B1:心雑音、僧帽弁の変性、僧帽弁逆流が認められるが、心拡大を認めないもの。
・Stage B2:心雑音、僧帽弁の変性、僧帽弁逆流が認められ、心拡大を認めるもの。
・Stage C:咳や息切れなどの臨床症状があり、鬱血性心不全徴候(肺水腫)があるもの。
・Stage D:標準的な治療に反応しない難治性心不全を示すもの。
ステージA、B1、B2の初期段階では咳や息切れといった特徴的な症状を示さず、ほとんどが無症状です。
しかし病気が進行すると、拡大した心臓が気管を下から押し上げるため、咳や息切れといった最初の症状が見られます。
病状がさらに進行すると、息苦しさ、運動不耐性(少しの運動で疲れやすくなる)元気消失、肺水腫による呼吸困難、失神といった症状が現れます。
診断方法
僧帽弁閉鎖不全症の診断は聴診、レントゲン検査、超音波検査など、複数の方法で行われます。
聴診で心音の確認をする際に、僧帽弁の機能が低下して血液の逆流が起きると特徴的な心雑音が聴取されます。
レントゲン検査では心臓の形や大きさ、さらには肺水腫の有無などを確認します。
さらに、超音波検査では僧帽弁の動き、僧帽弁の厚さ、血液逆流の有無など、より詳細な情報をリアルタイムで確認します。
これらの検査結果を総合的に判断し、症状の程度や進行具合に応じた診断とステージ分類を行います。
当院では心雑音が確認された場合、心臓のどの部分から雑音が出ているのかを特定し、定期的に診断を受けてもらうようお勧めしております。
また、循環器専門の獣医師が定期的に診察を行っているため、専門的な診療が可能なのに加えて、院内でも定期的にセミナーを実施し、病院全体で循環器診療の方針を定めております。
そのため、循環器専門医が不在のタイミングでも、他の獣医師が診察を行える体制を整えており、循環器疾患でお困りの場合はいつでもご相談いただけます。
治療方法
僧帽弁閉鎖不全症の治療は病状の進行度に応じて異なり、一般的にはStage B2の段階で治療を開始します。各ステージでのアプローチは以下の通りです。
・Stage A:現時点で心臓に異常はないため、治療の必要はありません。1年に1回は心臓の定期検査を受けましょう。
・Stage B1:薬による治療は行わず、経過観察を行います。定期的にレントゲン検査や超音波検査を実施してステージが進行していないか確認します。
・Stage B2:ピモベンダンという強心薬を用いて内科的治療を開始します。Stage B2からピモベンダンの内服を開始することで、肺水腫を発症するまでの期間を遅らせることができると報告されています。
・Stage C:強心薬に加えて、肺水腫治療のために利尿剤を併用します。肺水腫による呼吸困難が見られる場合は酸素投与による呼吸管理も実施します。
・Stage D:高用量の利尿剤、ピモベンダン、降圧剤などを用いてQOLの改善を狙いますが、十分な治療効果が得られないことがほとんどです。緩和ケアが治療選択肢として考慮されることもあります。
これらの内科治療は症状の進行を遅らせるためのものであり、完治させる治療ではありません。
腱索再建や弁輪縫縮などの外科手術により、僧帽弁を再建すれば完治できる可能性がありますが、外科手術にはリスクが伴い、適応症例も限られています。外科手術を検討する場合は、まず循環器の専門医と相談することが大切です。
予防法やご家庭での注意点
僧帽弁閉鎖不全症に対する有効な予防法は確立されていないため、心臓の状態を早期に把握して病気の進行を遅らせるためには、定期的な健康診断が非常に重要です。
また、肥満は心臓に負担をかけるため、適切な食事と適量の運動によって太らせないことを心がけてください。特に好発犬種や中高齢の犬は僧帽弁閉鎖不全症のリスクが高いため注意しましょう。
まとめ
僧帽弁閉鎖不全症は犬における循環器疾患の中で特に一般的なもので、僧帽弁の機能障害により心臓内で血液が逆流する状態が生じます。この病状を早期に発見し治療を始めることで、病気の進行を遅らせることが可能です。それにより、愛犬の健康寿命を伸ばすことができます。
ご家庭では、日頃から愛犬の呼吸の状態や普段の様子を観察して、少しでも異変を感じたら獣医師にご相談ください。
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